移動を伴ったUstream配信システム~祇園祭中継の機材~

こんにちは。高寺です。ここ数週間に渡って、先月15~17日にかけて行った「京都祇園祭Live on Ustream」の取り組みについてお伝えしています。今回は、祇園祭レポートの最後として、映像やUstreamの収録/配信システムといったテクニカル面についてお伝えしようと思います。

配信システムには「TVUPack」を活用

祇園祭は様々な儀式や行事から成ち、街中を練り歩くといった移動を伴う行事が多くあります。つまり、密着中継するには配信システムも共に移動しなくてはなりません。昨年は、PCを身につけ、手元でエンコードしながら行いましたが、電波状況の良し悪しで配信NGなエリアも生じていました。そこで、今年は以前お伝えした、TVUPackを利用することに決めました。映像をリュック型のエンコーダーを通し、複数本の3G回線を束ね、太い回線を擬似的に作り出して遠隔地に映像を伝送するという機材です。

今回は、祇園祭の会場である京都市街から、安定したネット環境のある東京のスタジオへ映像を送り、そこからUstreamに配信するスタイルで行いました。機材/技術の面で、TVUPackの取扱元であるスターコミュニケーションズ(株)様には、多大なご協力・ご支援を賜りました。

TVUPackは1本のバッテリーで40~50分駆動します。2本接続されたバッテリーを交互に使いながら、使っていない方のバッテリーを交換することで伝送を止めることなくシームレスに中継が可能です。 今回、スターコミュニケーションズさんから借りれるバッテリーは4本で、つまり約3時間程度の配信が可能でした。しかし、最終日17日の山鉾巡行は、最大5時間、余裕を見て6時間に及ぶため、全ての様子を中継するには8本以上のバッテリーが必要となります。(満充電に3~4時間かかる上、充電場所までバッテリーを充電・回収するのは現実的に不可能) 

そこで、バッテリーをレンタルすることに決めました。TVUPackのバッテリーはAntonBauerというメーカーの規格になります。10年近く前、私が勤めていた会社のDVCPROの機材は全てAntonだったこともあり、簡単にレンタル品が手に入ると思い込んでいました。しかし現在、国内の業務用映像の世界では、Vマウントというタイプが主流で、Antonのものにはレンタルが無いことが判明。急遽、機材レンタル屋さんに倉庫を漁ってもらい、VマウントをAntonの形状に変換するアダプターを探してもらい、借りることができました。(ちょうど2コだけ発掘できたようです。数年ぶりに貸し出しされたらしいです…) もしもTVUPackを使う方で、バッテリーを多めに借りたい方はこちらにご連絡を。(株式会社テックス

(左:TVUPack付属のバッテリー 右:レンタル品のVマウントのバッテリーと変換アダプタ)

収録機材はミニマムに

当日使用するTVUPackの機材は、HDMIかSDIといったHD映像の入力端子に対応しているため、SDI出力を備えた小型カムコーダー「SONY HXR-NX5J」をベースに収録システムを組みました。

 動きながら撮影するため、ケーブルのすっぽ抜けの心配のないBNCケーブルで接続するSDI端子の方が、HDMI端子よりも安心できます。音声は、現地音を収録するカメラマイクだけでなく、実況コメントをする私の声を拾うピンマイクが必要なので、2系統の音声をミキシング。(当日は気温が高く暑いため、水を飲んだりする休憩の機会が多いので、ピンマイクの音声を切るためのカフ代わりにもミキサーが必要だと考えていました。)

更に、その音声を映像にエンデベッドし、SDI一本でTVUPackに入力させる必要があるため、音声をミキサーから一旦カメラに戻すように配線。収録時、ほぼワンマンオペレーションになるので、機材は最小限にするために民生機材も活用しました。特にaudio-technicaのAT-PMX5Pは単三電池で長時間駆動・プラグインパワー対応・Phone端子対応・パンポットが振れたりと、低価格・小型ながら非常に優れモノでした。

実際の収録・配信現場

TVUPackは、電源を入れるとエンコーダーのコンピュータ部分が立ち上がり、自動的に3G回線に接続。2分程度で映像を伝送できる状態になります。この間、一切、設定などを行う必要はなく、すべて自動的に行ってくれます。伝送された映像は非常に高画質な品質で送られていたと、東京でUstream配信に携わったスタッフは語っていました。

昨年、xperiaから中継を行ったのですが、後からアーカイブを見てみると、100以上の動画ファイルに細切れになって記録されており、至る所で電波状況が悪かったことが推測されました。さらに今年は3連休と山鉾巡行が重なり、例年以上の観光客数が見込まれていたため、回線の確保ができるかどうか不安でした。

今回、3G回線として、e-mobile×2系統・Docomo×3系統・softbank×1系統 合計6系統をTVUPackに装備。これで3.5MBps程度の回線となります。結果的に3日間の配信で、3Gの電波障害によるで伝送の不具合は一度も見られませんでした。建物の奥に入ったときなど、6回線中2本が電波NGになったこともあったようですが(東京のスタジオで、電波状況のステイタスがモニタリング可能)HD映像の伝送は止まることなく送られていたようです。

(左:TVUPackに接続された6本の3G回線 右:東京で受けた伝送映像の受信画面)

収録のためのカメラ/音声機材も3日間、全く問題なく、良好な映像・音声で撮影することができました。NX5Jは録画のためのフラッシュメモリーユニットも借りたため、テープ交換の心配なく、行事の全てを収録することができました。(Ustream上でもアーカイブ記録していましたが、保険のためカメラ側でも映像を記録しました。)

システムの課題点

今回のシステムは3日間問に渡り、結果的に非常に高品質のUstream配信を行うことができました。

しかし一点、悩まされ続けたのは、連日35℃を超える灼熱の京都の環境で引き起こされた「TVUPackのバッテリーの過蓄熱」の問題。その結果、いつの間にかTVUPackの電源が落ちていたり、バッテリー交換時にシステムがダウンしてしまうことが発生していました。苦肉の策として以下の対策で対応。

◆TVUPackを片掛けして背中の熱を放出、機材のカバーをゆるめて機材を外気にさらす

 左が配信当初の様子。右は慣れてきた頃のスタイル。両肩で背負った方が楽なのですが・・・。

◆冷却ジェルシートをTVUPackやバッテリーに貼り付ける。

電子機器なので、氷や水で冷やすわけにもいかず、 発熱時に使うシートを貼り付けました。3日間で4箱くらい使いました・・・。そして配信が終わる頃には、熱のためジェルがべっとりと機材に貼り付き、メンソールの移り香が・・・。

◆後ろからとにかくあおいで風を送る

最終的にはこれが一番効いたような気がしました。同行した山田は、うちわで扇ぎすぎて、3日間で手首が最も疲れたと言っていました・・・。 途中からFacebookでの情報発信というよりもバッテリーの番人として頑張りました。

今回は機材/システム面でもいろいろ新たな試みができ、様々な有効性・課題点を発見することができました。今後も、実験や実践を通し、ノウハウを蓄積しながら、レポート等でお伝えしていこうと思います。