現代のユーザーに好まれる動画広告の長さとは?

世界中での1日あたりの動画総視聴時間が10億時間を突破したYouTube。Web動画のデファクトスタンダードとして世界中で利用されており、そこで展開する動画広告は、商品やサービスの認知拡大・イメージ向上に寄与する、今や企業にとって大切な広告チャネルの一つとなっています。

数年前、動画広告をスキップすることはできず、視聴者は選択した動画を鑑賞する前に必ず見なければならない、いわゆる”スキップできない”YouTube動画広告は、視聴者にストレスを与え、期待する広告効果とは逆に、ネガティブな印象を与えてしまうことをお伝えしました。(「スキップできないと逆効果!?YouTube動画広告」2013.4.22)

先月、GoogleがYouTube動画広告で次のような発表を行いました。

YouTubeが、動画の冒頭に流れるスキップできない30秒間の広告を2018年に廃止する、と発表しました。

YouTubeを運営するGoogleが、スキップできない動画広告の廃止を公式に発表したと英メディアCampaignが報じています。変更はユーザーエクスペリエンス向上を目的としたもの、とのことです。 2018年以降、スキップできないタイプの広告は、30秒より短いものに変更されます。

(「YouTube、スキップできない30秒広告を廃止!今後、短時間広告が主流に」iPhneMania 2017.2.18)

このYouTube側の動向について、「YouTubeは、ユーザーがスキップできない広告を嫌っていることに気付いたのだろう」などと、英国の広告業界も歓迎する意向を示しているとも伝えています。

YouTube動画広告は5秒経つとスキップできるものがある場合、画面右下の”あと◯秒後にスキップ…”の部分ばかりに目が行き、スキップできるようになるのをひたすら待つために、広告の内容に全く関心が行かない・記憶に残らない、という体験があるのは私だけでは無いはずです。こうした広告に疑問を感じる出稿者・ユーザーが増えてきたのでしょう。

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こうした実情を背景に、昨年5月に導入されたのが、本編再生前に6秒間表示されるスキップできない広告「バンパー広告」です。オークション型でAdWordsから出稿することができ、CPM課金 (Cost Per Mille=1000インプレッションあたりのコスト)となる広告メニューで、この広告のプロダクトマネージャーは、「短い俳句のようなビデオ広告」と称しています。Googleによる事前のテストによれば、既存のTrueView広告と組み合わせることでより大きな成果が得られたのだとか。他の広告フォーマットを補完する役割を担うようで、バンパー広告と他の形式の動画広告と組み合わせた運用が想定できるでしょう。

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YouTubeの広告フォーマット」より

日本でも広がる5~6秒の短尺動画広告

まだまだ日本においては、15秒・30秒といったTVCM出稿を目的として制作した動画による動画広告運用が主流ですが(未だスキップできない広告も多いですが)、感度の高い企業を中心に、5~6秒といった短尺動画広告の展開を始めています。YouTubeで数十回ほど広告を表示してみましたが、私の体感では1~2割程度の広告が6秒以内に終わるものでした。

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ただ、バンパー広告としてではなく、TrueViewとして出稿している例が多く、どうしても右下のスキップボタンに目が行きがちですが、この秒数だとスキップできなくてもストレスを感じることは少なく、そもそも、”スキップしようかなと思う → マウスを持つ → クリックする”この一連の流れだけで5秒近くは過ぎていきます。


この長さであれば、私達視聴者も、わざわざスキップする必要が感じませんし、広告の内容に興味があれば視聴後に訴求内容について印象も残るのではないでしょうか。

実際に、株式会社ジャストシステムがバンパー広告のローンチから1ヶ月後に行った調査では、この広告に対して「そんなにストレスにならない」と思う人が38.9%、「動画の離脱原因になりにくい」と答えた人が37.3%、「広告やYouTubeへの印象も悪くならない」と回答した人が35.7%という結果が報告されています。つまり、YouTubeのバンパー広告は、およそ4割が、本編再生前の冒頭の動画広告が離脱要因にはなりにくいと感じていることが分かります。

YouTubeの新しい6秒間広告は、約4割が「離脱要因にはなりにくい」
(Marketing Research Camp 2016.6.2)より

短尺の動画広告で重要なのはインパクトとバリエーション

広告のクリエイティブ目線で考えても、バンパー広告の6秒間は非常に短い尺です。6秒間ナレーションを冒頭から最後まで入れるとすると、ひらがなで30文字程度しか収まらず、あれもこれも訴求することは不可能です。例えば、”商品名・キャンペーン名だけ”、”機能・効能だけ”などと、訴求ポイントをピンポイントに定め、6秒間で視聴者に強い印象を与えなければなりません。そうなると、既存のTVCMの流用で済ますことはまず不可能で、Web動画広告だけを目的とした動画の制作がますます重要になります。

しかし、6秒という短尺の場合、それよりも長い尺の動画と比べ、クリエイティブにかかる費用も比較的低く済みます。それは、これまでもWeb広告動画向けに制作を行ってきた企業にとっては、同じ費用感で複数のクリエイティブを制作することができ、バリエーションを見せたり、ABテストによってより効果の出たクリエイティブに広告予算を寄せることができます。

バリエーションという意味での事例ですが、昨年夏に米国でペプシが行った広告キャンペーンでは、夏にまつわる5秒動画広告を100本制作し、バンパー広告で展開しました。

Twitterの短文メッセージなどに代表されるように、現代人のコミュニケーションは短時間で済ませられるライトなものが好まれる傾向にあります。動画広告もTVCMがベースとなるの15秒・30秒の尺では長過ぎる時代になっているのです。