企業のSNS活用調査報告書の狙いとは? ~経済産業省に実際に聞いてみた

今年の4月11日、経済産業省から「企業のソーシャルメディア活用に関する調査報告書」が発表されたことを以前、記事でお伝えしました。(参照:国も必要性を認識する企業のSNS活用 ~企業のソーシャルメディア活用に関する調査報告書

http://www.meti.go.jp/press/2016/04/20160411002/20160411002.html

企業のFacebookやTeitterを始めとしたソーシャルメディアを活用したマーケティング活動を行うことが定着した多くの企業がある一方、まだその分野に手を付けられていない企業に対し、企業のソーシャル活用の現況や、「ソーシャルメディア活用 ベストプラクティス」の資料では、具体的な先進事例の紹介を行い、企業のソーシャル活動をバックアップする内容となっています。

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企業のソーシャル活用などのデジタルマーケティングサービスを提供している当社ですが、メンバーの間でもこれらの報告書はじめとした内容は非常に充実しており、企業活動の振興を図る経済産業省、ひいては国もソーシャルメディアの企業活用に対して重要性を認知して、振興策を取り始めたのだと考え、非常に高く評価させて頂いていました。

そこで、この報告書をリリースした背景にはどのような狙いがあるのか聞いてみたく、経済産業省のご担当者様にインタビューを申し入れたところ、快諾して頂きましたので、本日はそこでお伺いできたメッセージについてお伝えしたいと思います。

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経済産業省のご担当者様にインタビュー

今回、お話を伺ったのは、経済産業省・商務流通保安グループ 消費経済企画室長の正田聡様。様々なお話を伺ったり、情報交換をさせて頂きました。

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◆本報告書をリリースした狙いは何でしょうか?
ソーシャルメディアはご承知の通り、日本でも非常に多くの人が利用しています。平成26年度には、20歳代の95%がソーシャルメディアを利用しているという報告もあり、今日、殆どの人が何らかしらの形でSNSを利用しています。一方で企業側は「消費者志向経営」が社会に求められている中、企業と消費者は本当に結びついているのかという疑問が常に付きまとっています。ソーシャルメディアでは、直接企業が消費者の声を聞くことができ、そこで得られた消費者情報は企業経営に活かすことができる重要な情報であると考えています。

ソーシャルメディアの企業利用においては萌芽期である今、ソーシャルメディアを活用しきれる人材が企業に居ない点に課題があると感じました。そこで、SNSを活用している先進的な取組を明らかにして、消費者志向経営を後押ししたり、マーケティングに活用して効果を上げることを期待して報告書がまとめられました。

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◆実際報告書をまとめた後、事前に予測していたことと比較して何か気付きはありましたか?
報告書をまとめる前は、中小企業においては、ソーシャルメディアを熟知する人材不足から活用が進んでいないのではと考えていました。そして大企業においては様々な人材が居ることから、比較的活用が進んでいるのではないかと予想していました。

しかし、全体を通して調査してみると、中小企業・大企業に関わらず、取組があまり進んでいなかったのが実情でした。大企業でもSNSに長けた人材が居なく、活用のハードルがけっこう高かったようです。企業規模に関わらず”SNSを熟知した人材不足”という点が最も喫緊の課題だと感じています。

一方で企業規模に関わらず、SNSの取組を進めている企業もあり、現状では活用できている企業とできていない企業の二極分化が進んでいる状況が見られました。こうした違いは、いずれ企業間の競争力などに影響する要素の一つになるのではないかと考えています。

ソーシャルメディアに対する取組を進めている企業は大企業だけでなく、中小企業・零細企業・ベンチャーなど様々な規模感だけでなく、地域的に見ても大都市圏のみならず地方の企業も積極的に取組を進めている事例もありました。今後、企業の規模感や所在地に関わらず、企業にとって重要なマーケティングツールとして利用されうるということが示唆されていると思います。

◆報告書をリリースした後の反響はいかがだったでしょうか?
反響は非常に大きかったです。恐らく、どの企業もソーシャルメディアがマーケティング領域において有望分野だということは頭では抽象的にはわかっていても、実際どうして良いかが分からないという現状があったのだと思います。2016年3月に行った報告会でも、280社以上の企業の関係者の皆さんが出席されました。調査事業を委託した日経BP社にも問い合わせが多く来たと報告を頂いていますし、私達の元に講演依頼もいろいろ頂いています。本当に実需のあった報告書だったと捉えています。

◆様々な企業のSNS活用事例がある中で「Social Media Best Practice」中の42社を選択した理由は?
「Social Media Best Practice」中の42社の事例は、それぞれソーシャルメディアの企業活用において先進的な取組を行っておられる企業です。それぞれ特別にユニークな取組に見えますが、まだ活用できていない企業から見た時「自分たちもSNS活用をできるのではないか?」といった内容も多く、そうした”気づき”になることを期待した事例をピックアップしています。そのために、大企業の取組だけでなく、中堅・中小・ベンチャーなど様々な企業の規模や、製造業・食品・日用品・流通・情報・金融・サービスなど、業種においても横断的に網羅しています。また、SNSで集められる消費者情報には様々な種別があり、それを企業が活用する目的ごとにも分類しています。具体的に言えば「販売の促進」「認知の向上」「製品開発のサポート」の3点の側面からも分別しています。

企業の規模・業種・SNS活用の目的の3側面から、幅広くまだSNS活用に未着手の企業に対し、広く気づきのきっかけになりように選定をしました。

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◆今後のSNS企業活用の機会は益々増えていくと思いますが、その中で何を期待したく考えていますか?
かつての高度経済成長期は、供給が需要を下回っていて、供給側が出す新製品に対して需要が後からついてくる、企業主導型の時代でした。しかし、1980年台以降、供給が飽和し、需要が供給を選別する時代に変化してきました。そうすると、一方的に企業がプッシュ型で供給する製品や、単に機能的に優れているだけの製品では、消費者が満足しない状況になっていきました。

その結果、企業は一歩踏み込んで消費者との関係を構築したり、消費者の生の声を吸い上げながら販売促進・製品開発する必要性に至ります。つまり、消費者に寄り添って経営していくことがどうしても必要になる。こうした点で、ソーシャルメディア上の消費者情報の活用が今後、より重要になってくると思います。消費者の需要はどんどんカスタマイズされ、企業はそれに対応する必要性がある、マス・カスタマイゼーション(※)の時代に今は至りつつあるのかもしれません。そうすると、製品・サービスの売り手である企業側が業績を伸ばすためにはそれに見合った生産体制だったり、サービス提供体制を組むことが必要になってきます。そして、その前提として消費者の需要を明確に把握分析することが重要になってきます。その際にソーシャルメディアは非常に大切なツールであると思いますし、これをうまく活用することによって企業の発展に繋げられると思っています。今後もこのトレンドは続いていくと予測されますので、今後より重要なポイントとなってくると考えています。

※マス・カスタマイゼーション:マーケティング、製造業、コールセンター、経営戦略論における用語で、コンピュータを利用した柔軟な製造システムで特注品を製造することを指す。低コストの大量生産プロセスと柔軟なパーソナライゼーションを組み合わせたシステムのこと。

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◆今後の企業SNS活用に関して、経済産業省で具体的な支援策についてどうお考えですか?
まずはSNS企業活用に対して萌芽期のフェーズであることを踏まえると、まずは企業側でその重要性や意味に対する”気づき”を得てもらうことが最重要だと考えていますので、今回の報告書やBest Practiceのように、先駆的な例や成功例を広く横展開していきたいと考えています。まずはSNS活用ができていない企業が、自らの企業経営の中にどのように織り込むかを考えて頂く機会作りをまずは優先したく考えています。軸足をまずは”気づき”に置きながら、その他の支援策の選択肢についても必要性があれば排除せず考えていくべきだと思っています。

 

今後、企業のソーシャル活用はマーケティング活動の一環として、より一般的に行われていくことは誰でも予測できますが、経済産業省がその重要性を捉え、経済を回すためにより企業活動を活性化させるための、まずは第一歩として、SNSの企業活動における成功事例などの情報発信を開始したことは非常に大きな意義のあることだと思います。

インタビュー中でも度々出ていましたが、ソーシャルメディア活用のノウハウの普及、具体的にはそうしたノウハウのある専門人材の育成の推進が今後の課題になってくるようです。今回の報告書のような、情報発信を含めた、国による企業SNS活用の支援についての今後に大きく期待したく思います。