プロジェクションマッピング・ビジネス活用のヒント

プロジェクションマッピング。単語からすぐにどういうものか想像できる方は少ないかもしれませんが、「昨年のクリスマス、東京駅で再演しようとしていたが中止になったアレ」と言えば、あーぁ、ソレね、と分かる方が多いのではないでしょうか。

簡単にプロジェクションマッピングの定義を説明すると、「建物など奥行きのあるものをスクリーンとして捉え、そこにCG映像などをプロジェクターで投影することによって実現した、実物と映像がシンクロした視覚表現」といえるでしょうか。日本でも最近、広告の世界をはじめ、空間演出の新しい手法として注目を集めています。

先日22日(土)、私は御茶ノ水のデジタルハリウッドで行われたセミナーに参加し、広告などのビジネスの分野でプロジェクションマッピングが利用できないか考えてみました。講師は、一般財団法人プロジェクションマッピング協会代表理事の石多未知行氏。さまざまな事例を交えて、プロジェクションマッピングをとりまく現状についてお話して下さいました。

プロジェクションマッピングの歴史とその原理

プロジェクションマッピングという視覚表現は、プロジェクターが一般に普及し始めた10年以上前に生まれたとされています。舞台等の演出や、メディアアート等のインスタレーションとして、主にアート分野の表現手法として発展しており、今でもその傾向は強く残っています。

それが、プロジェクター等のハードウェアや、ソフトウェアの等の制作環境の発展によって、ヨーロッパを中心に建築物への大規模な作品作りが試みられ始めました。これらの作品の迫力は視聴者のインパクトによってネット上で話題となり、こうした視覚表現が定着してきました。

平面に描かれた2Dの静止画でも、光源の位置を設定し、影や陰影をつけることによって、奥行があるように見せることができます。CGを制作する時には、被写体や光源の位置や、カメラの動きなどを細かく設定して、影や陰影が自然に変化するようにして作ります。

トリックアートのように、人の目は意外と騙されやすいものです。この「錯視」と呼ばれる目の錯覚を利用したのがプロジェクションマッピングです。光と影をうまくコントロールしたCG映像を、建物など凹凸あるスクリーンに映し出すことで、建物などがあたかも動的に変化しているような錯覚を視聴者に与えるのです。

ビジネス活用のヒントを世界の事例から

新しい表現というものは、一般への定着や普及とともに、広告・宣伝などのビジネスシーンに活用されていくものです。前述した東京駅の完成イベントをはじめ、日本でもこうした方面に活用され始めていますが、欧米では数年前から活用されてきたようです。

プロジェクションマッピングは、ショーとして多くの人を集められる力があります。イベントとして集客するには大きな的となりうる可能性があります。また、プロジェクションマッピングを記録した動画はwebでバイラルしやすい特性があるので、事後に公開することによって、後パブ効果も見込められます。

セミナー中で紹介された動画の中で、ビジネスシーンに活用するヒントがあったものをご紹介します。

◆Ralph Lauren 4D Experience
 ロンドンにあるラルフローレンの建物で行なわれたプロジェクションマッピングです。印象的なオープニングが終わると、建物がステージに変化してファッションショーが展開します。ファッションショーの部分、モデルさんは上映されるステージになじむように作られたクロマキーのセットで撮影されたものを合成しているのだそうです。

◆3D Projection Mapping promoting The Tourist in Dallas
アメリカテキサス州ダラスで映画「ツーリスト」のPRとして行なわれたプロジェクションマッピング。 大概の街頭広告に見慣れた私達でも、街中のビルが急にこんな感じに変化したら、必ず足を止めてしまうのではないでしょうか。

CGは架空のものを映像という形で視覚化することができます。ファンタジー性の高いエンターテイメントや、イベントの場で活用する事例も多くあるようです。

◆Walt Disney World Resort 「Magic, Memories, and You!」
 アメリカ・フロリダ州のウォルト・ディズニー・ワールドで開催されている「Magic, Memories, and You!」というショーの季節限定版の模様です。シンデレラ城が様々なイメージに変化するだけでなく、キャラクターが登場したり、訪れたゲストが投稿した写真が表示されたりと、非常に凝った演出になっています。

◆Nuit des 30 ans de TGV: 24 Sept 2011 parvis de la Gare de Lyon
2011年9月、TGV開業30周年を記念して、当時のTGV路線の終着駅であるフランス・リヨン駅で催された記念式典で披露されたプロジェクションマッピング。東京駅のイベントはこれを参考にしたのではないでしょうか。 

◆TETRA.TENNIS v3.0
2010年に行われたフランスマスターズシリーズの開幕記念イベントでのワンシーン。テニスコートをスクリーンに用いて異空間を演出しています。 凸凹のない平面でも、光と影をうまくコントロールすれば面白い表現が可能です。

◆Red Bull Off the planet
Red Bullによって行われた雪上のアートを飛ぶプロジェクト。所属するアスリートのスキーヤー達が、プロジェクションマッピングされたキッカー(ジャンプ台)を跳ぶ姿は幻想的です。 

プロジェクションマッピングは建物などのような大規模なものだけではなく、小さいものでも面白い表現が可能です。店頭のディスプレイなどにも応用可能ではないでしょうか。

◆New balance sneaker Projection mapping_01
ニューバランスのシューズが、様々な色に変化していきます。これは、企業が制作したものでなく、プロジェクションマッピングを学んでいる一般の人が制作した動画なのだそうです。 

◆Vodafone – The Evolution of Mobile
 約3分の映像の中に、非常に細かいプロジェクションマッピングで携帯電話30年の歴史が表現されています。途中、映像を写すモックを手で差し替えています。置く位置が、ほんの少しズレても成立しないと思うのですが、どうやってリアルタイムに位置合せしているのでしょうか…。

日本におけるプロジェクションマッピング

日本の場合、地域振興に活用される事例が目立つようです。これまで、地方で夜に行われ、多くの観光客を呼べるイベントといえば「花火大会」や「祭」がその代名詞でしたが、それらに加えてプロジェクションマッピングが注目されているとか。作品中にその地方の民話を盛り込むことによって、オリジナリティーを出すことができます。

◆第64回さっぽろ雪まつり プロジェクションマッピング
今年の雪まつりで披露された作品です。人気のあまり観客が殺到し、危険と判断され会期途中で中止になったとか。 

◆小学校のイベント
石多さんが、墨田区立堤小学校で行った事例。廃校になる学校での思い出作りにと、子供たちに校舎を型どったシートに自由に絵を描かせ、校舎に光で落書きをするというもの。

 
http://zugakosaku.exblog.jp/より

同様のプロジェクションマッピングを、東日本大震災で被害にあい、統廃校となる宮城県の小学校でも行うそうです。その際にかかる費用の一部の支援を募っています。(被災閉校となる浜市小学校へ贈る光の卒業アルバム 「浜市小学校感謝祭」) 支援者は、プロジェクションマッピングでSpecial Thanksとして名前が紹介されるようです。ご興味ある方、是非どうぞ。

日本でプロジェクションマッピングを行うときの注意点としては、
・都会の場合、街灯やネオンなどの光が明るく、プロジェクターの光が効かない
・プロジェクションマッピング自体が看板・ネオンとして捉えられがちで、各種法規制に引っかかる場合がある
・人が集まった場合の警備体制や、道路使用許可等の警察との連携が必要 
などが挙げられていました。 

セミナー後、講師の石多さんに個人的に伺ったところ、(勿論、作品の尺や規模によりけりですが)制作期間は最低でも3ヶ月、理想は半年くらいは見込んでもらいたいとのことでした。ストーリーの作成や実際のCG制作は勿論、許可申請関連の作業に意外と時間がかかるのだとか。

圧倒的な迫力とインパクト、集客や話題性を実現するプロジェクションマッピング。イベンターや代理店、地方自治体の皆さん、検討してみてはいかがですか?

Photo By sunatomohisa  emptyage