かつて、スマートフォンを持ち始めたものの、いまいち完璧に使いこなせていない妹の姿を、スマホブームを背景として記事を書きました。(参照:レイトマジョリティに聞く、スマートフォンに代えて思った・感じたこと) 今日は、そんな妹の斜め上を行く、私の母についてご紹介したく思います。
私の母は、現在63歳。数年前にスーパーのパートを辞め、現在は趣味の家庭菜園と、愛猫ポンすけの世話に手を焼く毎日を過ごしています。実家暮らしの私は、両親と同居しています。
旦那(私の父)は、水産物の仲卸問屋を経営し、数十年に及び、その手伝いをしてきました。インターネットや携帯といったIT関係のものに触れる機会も興味は全く無い層といえます。ビデオの予約録画やエアコンのタイマー設定など、日常生活に必然性が生じるとようやく使ってきた感じです。つまり、いわゆる「ラガード」に属する人間であるといえるのではないでしょうか。
そんな母にiPadを使わせてみた。
2010年5月末、我が国でもAppleから初代iPadが発売されました。その後、広く普及し、日本でもタブレットPCと呼ばれる新しいジャンルが開拓されたのは皆さんの記憶にも新しい事実だと思います。
新しいデバイスはまず触ってみようということで、弊社でも発売とほぼ同時に購入しました。何度か自宅にも持ち帰る機会があり、自宅で触っていると、「また何か新しい機械を使っているわ」といった目線でこちらを伺う母。そんな折、”Appleの優れたインターフェースは老若男女、どんな世代にも受け入れられる・・・”みたいなTVCMの記憶もあり、試しに、インストールしていたゲーム「太鼓の達人」を母に勧めてみました。
「コレ、面白いわね・・・。」意外な反応が返って来ました。結果、「太鼓の達人」にハマりまくり、「カルメン前奏曲」と「夏祭り(ホワイトベリー)」(勿論、設定は「かんたん」)は、何度聴かされたものか・・・。そして、すっかり、「次はいつiPad持って帰ってくるの?」と私に聞くようになる始末に。見兼ねた私の父が、「お母さんにソレを買ってやりなさい」とまで言うことになりました。
ゲームに、YouTubeに、メールに。
そして、2010年6月、我が家にiPadがやって来ました。まさか、ITとは無縁だったはずの我が家のリビングにiPadが置かれる日が来るなんて・・・。母がiPadを使う光景は、ガジェット小僧の私としては胸熱に映ります。自分用に自宅には無線LANを巡らせているので、WiFi経由でインターネットのアクセスも快適です。
「太鼓の達人」は勿論、教えてあげた、数字を順番に押すゲーム「Touch the Numbers」や、ホッケーのゲームも楽しみはじめました。
YouTubeでは、猫の動画を楽しみ、インターネットで野球やサッカーの情報を見るようになりました。そして、Gmailでアカウントを取ってあげ、使い方を教えた結果、ついにはメールでコミュニケーションするようにまでになったのです。
祇園祭の取材中のメール。けっこうシリアスな内容も・・・。
自宅に遊びに来た妹Nが最後にiPadから乱入。
携帯電話の通話が繋がらなかった3.11の頃も、メールであれば通信可能と伝えていたので。
自宅はさいたま市のため、計画停電が行われました。
しかし、その後は・・・
世界を変えたのは勿論、うちの母のライフスタイルを変えた、故ジョブス、すげえ!と思っていました。
ですが、前出の2011年3月のメールを最後に、メールのやりとりは途絶えました。そして、そういえばゲームを楽しむ姿も無くなったような気が・・・。そして、唯一使っているのを確認できるのは、ファンである、プロ野球のジャイアンツか、サッカーJリーグの浦和レッズの試合結果をネットで見る時位しか見かけなくなったような気が・・・。
結局、iPadの優れたインターフェースもラガードである母には最終的には完全に定着させることが出来なかったようです。そんな母にiPadを使ってみての感想について、ちょっと話を聞いてみました。
YouTubeの猫動画に全く興味を示さない黒猫、ポンすけ
◆あなた、最近iPad使ってないでしょ?
忘れちゃったー、使い方。ただやってるのはゲームだけ。数字を早くやる奴。(筆者注:「Touch the Numbers」)
あとはサッカーと野球の点数とか結果を見たりとか、いつ放映するかとかそういうのしか使ってません。ゲームはやってるよ。楽しいよ。ボケ防止にもなるかなーと思いながら。
◆でも一時期、メールとかやってたじゃない?
うーん、あの時、もっとやってればよかったけど、やってないとついつい忘れちゃった。そんなに難しくはないけど、でも平素、携帯とかも使ってないから面倒くさいのね。そりゃ使いたい時あるよ。あんた(息子である筆者)がご飯要るのか、お酒飲むのかなーって、帰って来ないと分かんないじゃない?そんな時はあったら便利かなーとか思うけど。
一応、そういう使い方もできればいいなと思って、購入・指導したのですが・・・。結局、数回、メールでこのような日常の些細な伝達をメールで行なってみたものの、”メールを随時チェックする”という習慣が、母の中に付かず、メールを送ったのに見ていなかったといったことが数度あり、途絶えてしまいました。
◆もっとどうだったら使ってた?
一口に言うともっと簡単だったらだよね。一つボタン押せば、欲しい情報をパッ、パッと表示されたり。ちょっと私には面倒。無ければ無いでいいやって気持ちになっちゃうから。ちょっとでも普段から使ってるものだったら、また利用しようかなー、って感じになるけど。一旦遠ざかっちゃうと、やっぱりいいっかーって感じになっちゃうのよね。あと、ローマ字入力が難しい。あんたたちのように早く打てない。50音の入力の方が楽。
なかなか、ハードルが高い要求ですね。ずっとテレビ・新聞等のような、一方的に情報を受け取ることに慣れた世代は、なかなか自分から欲する情報にアクセスするという行為が面倒になってしまうのでしょうか。
◆もうメールの送り方とか覚えてないでしょ?
うーん、でも、少し思い出せばできると思うよ。でも、あんたたち、変なことやってると笑うじゃない。だからあんたたちも悪いのよ。お母さん、やろうとしてるとき、そうやって一つ一つ笑いのタネにするから、もういいやって感じで。あたしにだってプライドがあるでしょうが。笑われてまでやることはないでしょう。
そりゃ、いきなり本文が「ぶぶ」ってメールの次に、被せるように
次のメールが来れば笑いのネタにしますよね・・・。
◆最近じゃ専らスポーツの結果見てるんだよね?
サッカーと野球の結果とか。次、どこで対戦するのかとか。そういうのばっかりしか観てないから。無ければ不便なんだよ。新聞だけ見ても、今日の対戦相手しか書いてないし、次の日にならなければ結果わかんないし。夜中のスポーツニュース見ない限りは。(iPad見れば)結果分かるじゃない?スポーツのニュース待ってないで寝られるし。やっぱり気になるし。ジャイアンツが勝ったか負けたか、浦和レッズが勝ったか負けたが分かればそれでいいの。あと、次の対戦がどこが分かれば。そういうの全部分かるじゃない?そういうのが分かるのは便利だなーって思って見てる。
去年までと違うレッズの健闘ぶりにには喜んでいるものの、ジャイアンツの最下位にはため息が絶えない最近のようです。 結局、知りたいという欲求が高い情報に対し、適切な情報が提供されていれば習慣づくのでしょう。
◆別にパソコンでもそういうの分かるんだけど。
あんた達はそうでしょ?私たちはパソコンなんかわからないし、携帯だってやろうとも思わないし。どこ押せばいいか分からないもん。みんな持ったほうが便利よーとか言ってくれるけど、持って無くたって別にどうってことないし。Kさん(おばさん仲間)あたり、持ってたほうが便利よー、いつだってメールできるしって言うけど。Tさん(同じくおばさん仲間)あたりは、仕事の関係上、あった方がいいとか思うけど、無ければ無いなりにやっていけてるからいいのよ、面倒だし、とか言ってるし。
◆もっと使えればいろんな情報を集められると思うよ。
だから、あんたたちはすごいなーって思っちゃうのよ。アパート探しや、病院の時間だとか。そうなればすごいなーって思うけど、まあいっか。私は私だしって思っちゃうのよ。あんたたち見てると早すぎて追いつけていけないもの。どこに何あるかとか調べちゃう、よくあんたたちはフルに活用してるけど。そこまでできない。もういいやってなっちゃう。(使える人に)聞いた方が早いや、ってなっちゃうのよ。
◆普段、情報を得るのは?
朝は一通り、新聞見るじゃない?あとはテレビは殆ど付けっぱなしにしてる。朝から夜まで同じニュースずっと見てるじゃない?だから、新聞よりもテレビ見てることが多いかな。忘れることも多いけど。それ(iPad)だとニュース出ないじゃない?(筆者:出るよ。なんでも出るよ)出るの?そのやり方聞いてないし。やり方分かんないし。それだったら毎日テレビ付けっぱなしにしてんだから、どこかでニュース見てるからいいやってなっちゃう。
◆地デジになって良かった?
地デジになってチャンネルが増えてよかったね。どこか回せば、スポーツとかやってるし。クイズ番組とかで答えるのも、興味なくはないよ。賞品とかもらえるみたいだしね。でも、リモコンが難しい方のだから、まぁ、いいやってなっちゃう。簡単な方のリモコンしか使ってない。
最近のテレビは良くユーザーを分かっていて、2種類のリモコンが付随してきます。
左:難しい方のリモコン。 右:いつも使っている簡単な方のリモコン。
やっぱり、テレビが主な情報源のようです。両親とも年齢的に仕事をリタイアしたため、家に居る機会が多くなり、テレビを観ている機会は多いです。地デジのメリットもある程度は受けているようですが、視聴者参加型の番組には参加する行動自体起こしていません。
昨今、次のITデバイスとして、PCやインターネットの機能がテレビと融合した「スマートテレビ」というものが注目されています。確かに、ITデバイスに疎い層に対し、彼らが未だ絶大な支持をするテレビに注視するのは当然のような気がします。
しかし、結局、Appleの優れた・簡便なインターフェースでも完全に馴染むことができなかっただけでなく、地デジの機能でさえ使うことのない私の母。そうした層にも使いこなせるようなスマートテレビを作ることは非常に高い壁のような気がします。今後、どんな商品が受け入れられていくのか注視したく思います。
photo by Ant McNeill