株式会社アクトゼロのソーシャルメディアプランナー黒沼透です。
今週はステルスマーケティング(ステマ)について、2chを中心に批判が大きく高まりました。今後、企業は「ステルスマーケティング」をどう捉えていくべきかについて考えてみます。
- ステルスマーケティング(ステマ)とは何か―過去の事件と手法について – NAVER まとめ
- 有名人のブログを使った商品宣伝の実例|ステマ バイラルマーケティング
- 「食べログ」の順位操作 消費者庁が調査 – MSN産経ニュース
ステルスマーケティングとは何か、についてはwikipediaの当項目がアップデートされ、すごくわかりやすくなっていたので引用します。
ステルスマーケティング (Stealth Marketing) とは消費者に宣伝と気づかれないように宣伝行為をすることである。略して『ステマ』とも呼ばれる。
具体的には、あたかも客観的な記事を装った広告や、影響力のあるブロガーが報酬を得ていることを明示せずに、第三者的な立場を偽装して、特定の企業や製品について高い評価を行うことなどがあげられる 。この行為自体は刑事事件にはあたらない[要出典]ものの、モラルの観点からしばしば消費者団体などから非難を受けることがあり、また「やらせ」が発覚すれば消費者からの信用を落とすことにもつながりかねない。
このように、自身の身元や、宣伝が目的であることを隠して行われるため、消費者をだます側面を持ち『サクラ (おとり)』や『やらせ』との線引きが困難であるため、アメリカでは、マーケッターと「関係」の有無や、「金銭授受」の有無などを明らかにすべきという「倫理基準」を設ける動きが出ている。日本においても、マーケティングの教科書に「倫理」という新しい項目が加えられるなど、企業倫理の一環として「マーケティング倫理」が意識されつつある。
引用元:wikipedia – ステルスマーケティングより
今回槍玉に上がったのは、ブログ上で日記を装った形で、実際は依頼を受けた商品紹介を行うサービス(有名人ブログでの商品紹介や、一般ブロガー向けブログマーケティングと呼ばれるものの一部 )や、口コミサイト(食べログ・Yahoo知恵袋ほか)でのレビュー・口コミ代行などですが、ネット以外の既存メディアでも、消費者に気付かれにくい形での広告行為についての議論はかつてより存在していました。
近年テレビの情報番組で、企業やその商品について掘り下げることをコンテンツとして番組を構成することが増加してきています。その番組内容自体が「広告」なのではないかと、ネット上で問題視されたことがありました。テレビは、日本民間放送連盟放送基準に準じる形での自主規制を行なっており、公正性を保った上で放送事業が社会的に認められているメディアなので、視聴者に対してはその公正さがより強く求められています。
負け犬速報 : 【テレビ】テレビ朝日系「お試しかっ!」「お願い!ランキング」などのランキング番組は広告じゃないのか(ゲンダイネット)
※ただし、これらテレビメディア批判を行なっている人たちの中には、「既存マスコミ=悪」の構図を支持する層が含まれている可能性を理解しておく必要があります。
新聞・週刊誌では一般的には「記事広告」という形で、広告と記事本文が混じってしまわないように注意が払われる反面、パッと見で広告だとわからない形で世論を特定の企業・商品へ誘導する行為は一般的に行われてきました。「提灯記事」という言葉がある通りです。
それらに比較しても、なぜネットユーザーは敏感にステルスマーケティングに拒絶反応を示すのでしょうか?ぼくは、一連のステマ報道を見ていて、「コモンズの悲劇」について考えていました。
コモンズの悲劇
たとえば、共有地(コモンズ)である牧草地に複数の農民が牛を放牧する。農民は利益の最大化を求めてより多くの牛を放牧する。自身の所有地であれば、牛が牧草を食べ尽くさないように数を調整するが、共有地では、自身が牛を増やさないと他の農民が牛を増やしてしまい、自身の取り分が減ってしまうので、牛を無尽蔵に増やし続ける結果になる。こうして農民が共有地を自由に利用する限り、資源である牧草地は荒れ果て、結果としてすべての農民が被害を受けることになる。
引用元:wikipedia – コモンズの悲劇より
テレビ番組とネットメディアの違いは、そのユーザー自体がメディアの担い手であるかどうかということです。2chや、ブログ文化や、食べログや、Q&Aサービスというシステムが、ユーザー同士の参加によって価値を作り上げてきたもので、ユーザーはそれを自分たちの「コモンズ」だと考えています。インターネットのWebサービスは、それを構成するプログラムにのみ価値があるのではなく、そこに参加しているユーザーたちによって完成されているということを知っているからです。その築き上げられてきた価値(牧草地)が、営利を目的とした企業の広報活動(牛)の競争によって損なわれていくということが我慢ならないのです。コモンズの悲劇のように、今以上に無計画なステマの横行でコミュニティが荒らしつくされてしまうことに、危機感を感じているのだと僕は考えています。
ステルスマーケティングは罪か
ステルスマーケティングの運用に関しては、今の時点では法的に「一応」クリアな状況だといえます。今年10月28日に消費者庁より以下の資料が発表されました。
「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」の公表について(PDF)
http://www.caa.go.jp/representation/pdf/111028premiums_1_1.pdf
正確には一度読んでいただければと思いますが、概要としては「ブログや口コミサイトで、商品のレビューを誰かに依頼することはOK。ただし、商品を実際の商品以上に美化して宣伝するのはダメ」ということです。なので、たとえば「ブロガーが依頼を受けていることを隠して、普段からその商品を気に入って使っていることを表明する」ことが、商品を美化することに直接つながっているかは、その影響や実際にそれを使っているかどうかという観点からも、それを証明することは困難です。
また食べログについても、「その店で食べてレビューを書くこと」を誰かに依頼したとして、そのレビュアーが店を絶賛するレビューを行った場合、それが「本心からか店の利益のためについた嘘なのか」は、誰にも証明できないのです。
では、ステルスマーケティングは愛されているか
ステルスマーケティングは、それを行う場所が「信頼できるコミュニティ」であることが前提となって初めて機能する手法です。そしてその手法を使っていることがユーザーに知れた場合、たとえ法的に問題はないとしても、ユーザーにはこれまでお話しした理由で拒絶されるでしょう。そして同時に現場となった、「コミュニティ」の価値は低減していき、いずれはそのコミュニティ自体の価値を、誰も信じなくなっていくのです。
サービスの運用者も、広告を出稿する企業も、その点わかった上でステルスマーケティングを行なっていく必要があります。
個人的には、一方通行でユーザーが受容する旧メディアならばまだうまく機能していたかもしれませんが、情報の透明度と伝播速度が早いソーシャルメディア時代との相性はあまりよくない上、発覚時の利用リスクも高いのではないかと考えています。みなさんはどう考えますか?