(この記事は、ビジネスジャーナルに2014年4月21日寄稿した記事に加筆したものです)
水曜日のプランナーズブログをお送りします。アクトゼロの黒沼(@torukuronuma)です。
ソーシャルメディア上で拡散する話題を数多く掲載することで爆発的なトラフィックを巻き起こすWebメディア「バイラルメディア」が世界中で人気をよんでいます。その代表格とも言えるのが月間1億ユニークユーザー(BuzzFeed:2014/03/27)を稼ぎだすバイラルメディアの最大手BuzzFeed(バズフィード)です。
東京オフィスも開設され、飛ぶ鳥を落とす勢いのBuzzFeedですが、新しいのはその投稿コンテンツだけではありません。バイラルによって産まれた大量のトラフィックを「収益に変える手法」もまた新しいのです。
BuzzFeedにはバナー広告がない
パートナーネットメディアにトラフィックを送るための記事紹介リンクは存在するものの、BuzzFeed上にはバナー広告が存在していません。TOPページには数多くのサムネイルが並んでいますが、一般的なWebメディアを読むときにほぼ間違いなく存在する「バナー広告領域」がBuzzFeedには存在していないのです。おおくのネットメディアが広告バナーによる収益化をしている中、それを採用しないBuzzFeedはどうやってサイトから収益を生み出してるのでしょうか?その答えは「ネイティブアド」です。
ネイティブアドって何?
ネイティブアドは新しい概念で、未だその定義は揺らいでいる部分が大きいのですが、乱暴かつ大まかにその要素を定義してみると以下のようになります。
ネイティブアドは…、
・掲載メディアの非広告コンテンツと、同じフォーマットで公開される。
・そのため読者に広告物だと意識されることなく読まれる上、非広告コンテンツ同様読者にとってちゃんと「読む価値のある」コンテンツである。
・スポンサーはそこで直接的に商品・サービスの訴求は行わないが、世界観をユーザーと共有することでブランドリフト効果※を狙う。
※ブランドリフト効果:ブランディング広告にユーザーが接することでもたらされる、好意度・購入意思などにおける意識変容効果。
ネイティブアドとよく比較されるのが「記事広告」という手法です。日本でも雑誌や新聞などで広く一般的ですが、記事広告とネイティブアドの差は、記事広告の多くが「掲載メディアのコンテンツに似せて作られる、スポンサーの意向が直接的に反映されたコンテンツ」なのに対し、ネイティブアドは「広告主によってスポンサードされた、掲載メディア主導で作られるコンテンツ」という点に有ります。
BuzzFeedの場合、ネイティブアドのコンテンツを制作するにあたってスポンサーと編集部での話し合いが持たれます。そこでは、ブランドがコンテンツを通してユーザーと共有したい価値観について検討されます。2012年から現在まで継続して行われている自動車ブランドMINIのケースを例にご紹介しましょう。
MINIとBuzzFeedネイティブアドの成功事例
MINIはコンテンツを通してブランドポリシーである「Not Normal(普通・平凡じゃない)」をユーザーと共有することにしました。そこで、”Not Normal”な出来事や自然現象などについてのコンテンツをBuzzFeedで複数公開し、Facebookで2000を超えるいいね!を獲得。BuzzFeedの記事は、ソーシャルメディア上の拡散を経て多くの読者に読まれることに成功しました。
これらの記事に触れたユーザーのブランドリフト効果を計測したところ、次回の買い替え時に、MINIの購入を検討したいと答えユーザーの割合が32.9%向上。MINIというブランドの印象で「楽しさ」を感じるユーザーが52.2%向上したという成果を得ました。単にブランディングが向上しただけではなく、具体的な買い替えの選択肢に選ぶ気になったというユーザーが増えたことは、ネイティブアドによるブランド意識変容の有効性を示しているといえるでしょう。(データは、BuzzFeed Case Study:MINIより引用)
コンテンツと広告の境界を「正しく」曖昧にする
国内でも東洋経済オンラインが、企業スポンサーを受けいれつつ、読み物コンテンツとして編集部がしっかりと記事を用意する「ブランドコンテンツ」という試みを始めています。ブランドコンテンツの場合もスポンサーの取り扱う商品・サービスの直接的な宣伝は行われません。
スポーツウェアのDESCENTE(デサント)とのコラボコンテンツでは『拝啓、燃え尽きランナー様』と題し、ランニング継続に失敗する理由などを紹介しています。ページの最下部からは、デサントのランニングに関するオウンドメディア記事へと導線が張られていますが、その飛び先もあくまでランニングノウハウを伝えるページで、ブランディング広告として活用されているのがわかります。
従来型バナー広告のクリック率の低下が叫ばれて久しいですが、Webメディア各社で「広告っぽさ」を捨てつつ「コンテンツの独立性」を上手く保つ方法として、ネイティブアド的なチャレンジが広がっています。