ネット選挙に果たせるソーシャルメディアの役割について考えなおしてみた。

金曜日のソーシャルメディアインサイトをお送りします。アクトゼロの黒沼(@torukuronuma)です。

今回は、ネット選挙とソーシャルメディアについて考えてみます。僕は以前「僕が選挙参謀ならネット選挙をどう戦うか(BLOGOS版はこちら)」というタイトルで、記事を投稿しました。僕たちの会社アクトゼロは、企業・官公庁のソーシャルメディア活用をお手伝いする仕事をしています。ネット選挙解禁の見通しがたった時期(2013/2/15)に、その一環として「ネット選挙」について短期的な形でどのように戦えるか考えてみたのです。

数ヶ月経ってきて、自分なりにネット選挙について調べていくうちに、ちょっと考えが変わって来ました。いまでは、選挙において短期的にソーシャルメディアを活用することでは、あまり有効ではないのではないかと考えています。次の参議院選挙の投票結果に「ソーシャルメディア上の活動がどれほど有効な影響をあたえることができるか」という点に、今は少し疑問を感じています。考えが変わった点についてまとめました。

なりすまし問題は「やっぱり」まずいかも

前回の記事を投稿後、東京新聞よりネット選挙における「なりすまし・デマ問題」についてインタビューを受けました。その時点で僕は「ネットには自浄作用があるため、なりすましやデマは一時的なもので、いずれあやまちは正される。公式アカウント上でどれだけ早く、公式の正しい情報を拡散できるかにかかっている」とお答えしたのですが、「選挙」に関して言えば正直どれだけその自浄作用で乗り越えていけるか…。と考えなおしました。

よくよく考えれば当たり前の話なのですが、ある立候補者を何らかの理由で陥れようとする人間がいたとします。本当に当選を邪魔しようと思えば、あらゆるデマを連続的に投下することが可能です。立候補者とデマ発信者では、発言コストが大きくことなるため、物量的にすべてのデマに本人が反論していくことは難しいといえます。また、当人のアカウントが公式に否定することで、よりデマを知る人が増えるという問題もあります。

Twitter・2chなど匿名のソーシャル上のアカウントで一般人を複数演じることも可能な上、その立候補者に否定的な意見をもつブロガーやメディアに掲載させることは可能です。ある程度信用のある発信元までに届けば、一定の拡散が行われるはずです。ソーシャルブックマーク上のブックマーク数などが、一部その記事自体の信憑性を担保していると考えるユーザーも多いため、ソーシャル上でシェアが進んでいるように演出することが出来れば、デマの拡散自体は残念ながら「容易」だと言えます。

デマの信ぴょう性の検証についても難しい問題があります。単純に事実と異なるデマであれば、事実を示しながら反証することもできるでしょう。

しかし、例えば「立候補者○○の息子とうちの息子が同じクラスなんだけど、その子のいじめが酷いらしい」といじめの証拠画像らしきものを一緒にシェアされたとしましょう。これにどう反証すればよいでしょうか?事実と異なることをいくら言葉で説明しても、「親がかばってる」ように見えます。教師が出てきて反論してきたらどうでしょう。「教師までグルだ」という声が上がるかもしれません。これ、どう対応しましょう?

また先日BLOGOSに掲載されていた荻上チキさんの記事ですが、以下のようにあります。

例えば質の面では、「デマも中傷も、ネットの自浄作用によって淘汰される」というようなことを言う人もいます。俯瞰して、そう言えるようなケースを見つけることはできるでしょう。でも、「自浄作用」と呼ばれているものは勝手に起こるわけではなくて、誰かがコツコツ応答することが前提で、そういうことが起きない場合も多い。「自浄作用」なるもの言葉は、単に表面上のカスケード現象が収まったことを指すばかりでで、オンラインでは見えない傷のケアまで含まない場合がほとんどです。応答の活動をせず、自浄作用ばかり強調する人は、ちょっと信用できません。

Webメディアは、ネット選挙運動解禁をポジティブなものにするために多くの”提案”をすべき~SYNODOS編集長・荻上チキ氏インタビュー前編~ (1/2)(BLOGOS編集部) – BLOGOS(ブロゴス)  

まさにその通りで、一見デマが静まったように見えてもそれによってもたらされた誤解や印象悪化まで、元通りに完全にリカバリーできるかとなると、難しいでしょう。世間的にはデマが収まったように見えても、真実を知らずデマを信じたままの人も当然出てくるはずです。

そもそも、選挙期間内のネットプロモーションは選挙に影響与えるか?

ネットが選挙に与える影響自体がそれほど大きくないんじゃない?という意見もあります。

 一応、いまの調査においてネット選挙のインパクトそのものというのはそれほど大きいものではなく、むしろ投票率は下がるインパクトを持ちます。将来的には、ネットを通じて政治情報を取っている人がより明確な争点で選挙が打たれた場合に投票にいくことも増えるかもしれませんが、ネット選挙は従来以上に固定票、組織票による政治が促進される側面は否めません。必然的に、組織でやる選挙をやっている政党が然るべきネット対策を行うことでより多くの有権者からの投票を確実なものとするでしょうし、特定の政党の支持者がネットでの候補者からの働きかけによって投票にいく確率が上がるということで名簿勝負になる部分が当初は強いと言えます。

【告知】今週発売の『週刊FLASH』で、みんなの党松田公太さんとネット選挙で対談: やまもといちろうBLOG(ブログ) 

財団法人「明るい選挙推進委員会」の第45回 衆議院議員総選挙の実態という調査(平成21年)第22回参議院議員通常選挙の実態(発行 平成23年3月)によると、『あなたが選挙区選挙で、その人に投票することに決めたのはいつ頃ですか。』という質問に対して、60~70%の投票者が選挙期間前に投票先を決めているという結果が出ている上、『選挙に役に立った情報源は?』という質問で、インターネットを選択したのは、わずか5~7%という回答結果です。

いくらネット解禁前だったとはいえ、選挙が行われているタイミングにおける、「投票する動機としてのネット」の影響力の低さを改めて認識させられる結果です。次の参院選の時点で「ネット」が今すぐ大きく影響力を持つかということは、たしかに考えにくい気がします。

ソーシャルアカウントはすぐには育たない

企業のソーシャルメディアアカウント運用が、すぐに売上改善につながらないように、立候補者のソーシャルアカウントはよほど知名度のある議員でない限り、立ち上げただけですぐさま読者を集められるわけではありません。

「選挙を戦う」という視点であれば、例えば地方に選挙地盤を持つ議員が、地元支持者への活動報告を行ったり、地元有権者との交流のレポートなどを行うなど、地道で、とても地味な部分でこそソーシャルメディアの双方向性が有効に働きそうです。そしてこれは一朝一夕で効果を生むものではありません。ただしネット選挙解禁後の今後のことを見据えるのであれば、有権者と候補者を直接つなぐ大切なチャンネルの一つとなり得る気がします。始めるならば今、しかし効果が出るのはもう少し先なはずです。

参議院選を目指すのではなく、地盤とのコミュニケーション基盤として

今の段階で、次の参院選においてソーシャルメディアの果たせる役割は、政党の公式アカウントなど支持者の集まりやすい部分では即時的に一定の効果を上げられそうな気がします。しかし候補者の公式アカウントにおいては、この選挙用に用意するのではなく、今後を最低でも10年単位で見つめた、政治活動のチャンネルの一つとしての開設をおすすめします。

ネット上に各候補者のアカウントが開設され日常的に運用されることで、今は限定的な選挙における「ネット」の影響力が今後向上していけば、寄せられるコメントやシェアなどの反応が日々の政治活動の「評価の鏡」となり、ゆくゆくはソーシャルメディア上の支持者の拡大と拡散力が、選挙時の活動を支える母体集団となる日が来るかもしれません。

黒沼透(@torukuronuma)

photo by Dick Thomas Johnson