Facebook mixi

ユーザーの人間関係のために、Facebookにできてmixiにはできなかったこと

金曜日のソーシャルメディアインサイトをお送りします。アクトゼロの黒沼です。

株式会社ミクシィの第3四半期決算説明会資料[PDF]
mixiが「スタンプ」導入 「mixiメッセージ」で試験的に – ITmedia ニュース 

今週、株式会社ミクシィの第3四半期決算説明会資料が公開され、同決算説明会において「mixiメッセージ」での無料スタンプ提供を開始することが発表されました。

TECH SE7EN : スタンプ機能発表に思う、mixiにいま必要なのは自主性なのでは
ネット上の反応は手厳しいものが多く、Twitter上などでは、そこじゃないだろうといった声が多く聞かれました。(個人的には既存mixiメッセージユーザーへの機能追加のリリースで、mixiだってこれだけで「大逆転!」とは思ってないだろうから、そんなに噛み付かないでもいいのに…。という気がしていますが)また、これをキッカケに、あの圧倒的に強かったSNSとしてのmixiがなぜ今の苦境にあるのかについて、あらためて様々な考察が持たれているように思います。

迷走するmixi(諌山裕)- BLOGOS(ブロゴス)

ある人は「足あと機能削除」がだめだったといい、ある人は「Facebookの実名性」に負けたのだといいます。僕なりにmixiの苦境については、ぼんやりと考えていたのですが、考えがまとまってきたので今日はこの話題でお送りします。なぜmixiは衰退したのか。

人間関係ってどういうものでしょうか?

SNSについて考える前に、まずは「人間関係とはどういったものか?」についてもう一度考えてみます。

まず、言うまでもなく同時に維持できる人間関係には「物理的な限界値」があります。1人で1万人と同時に濃密な人間関係を保つのは不可能ですよね?つまり、本当に親しい人間関係は一定の人数に絞られてくるはずなのです。

また、常に人間関係は変化を繰り返しています。僕らと友人との関係は、様々な原因から、つねに近づいたり離れたりして、一定ではありません。

たとえば、小・中・高と移り変わっていく学生時代から、社会人への変化や、人によっては転職などで職場や住む地域が変わることもあるでしょう。結婚や出産といった家族構成の変化や、自身の趣味・嗜好・思想信条の変化など、様々な要因によって濃密になる友人関係は変化していきます。たとえ、たった一つのコミュニティにずっと所属していたとしても、付き合いが深くなる人は時間の経過とともに、移り変わっていきますよね?

文章にすると、あたり前のことなのですが、でもこれに対応できているWebサービスってほんとうに少ないんです。僕の知る限りその辺りを一番うまくやっているのはFacebookの「エッジランク」という仕組みです。

友人関係の「濃度」を観察するFacebook

Facebookとmixiのそれぞれのホーム画面には、最新の友人の活動を知ることができる、ニュースフィード機能があります。友人がなにか発言したり、写真をアップロードしたり、と言った情報が、ここで僕たちに知らされます。Facebookとmixiそれぞれのニュースフィードは、ぱっと見、似たような機能に見えますが、2者の間には決定的な違いがあります。

それは、mixiでは原則として「マイミク登録されているすべての友人のつぶやきや更新情報が表示されている」のに対し、Facebookにおいては、「本当に親しい友人の重要な更新情報が優先的に表示され、Facebook上で疎遠だと判断された友人の重要ではない書き込みはほとんど表示されない」ということです。

Facebookのニュースフィード上での発言や書き込みの表示については、エッジランクという基準によって自動でパーソナライズされています。エッジランクを構成しているのは、(親密度:自分と友人との親密さメッセージのやり取りや、お互いのいいね!・コメントの度合いから算出)×(重み:その発言がどれだけ話題になっているか)×(経過時間:発言の新鮮さ)の3要素と言われています。「自分と関係の深い友人の、話題になっている新しい発言」がもっとも優先的にニュースフィードに流れ、ここで優先度が低い発言はあらわれることすらありません。

このシステムは、先に話した人間関係の変化を、Facebook上で再現することに大きく役に立っています。大学生が就職し、社会人になるタイミングを例に考えてみましょう。

学生時代、Aくんは大学生の仲間同士でFacebook上のつながりを構成していたとします。Aくんは、就職を機に職場の先輩や同期などと、新しい人間関係を構築していきます。かつての大学時代の友人のうち、いくらかとの連絡は途絶えがちとなり、いくらかとは交流が継続されるでしょう。ここで、FacebookはAくんの人間関係の濃さをFacebook上の活動から推測し、学生時代からの友人と社会人になって以降の新しい同僚のなかで、本当に今の時点で人間関係の「濃度」の濃い友人の活動だけをニュースフィードに流すのです。

エッジランクという、「情報の取捨選択」があるからこそ、Facebookはその個人の人間関係をソーシャルメディア上で新陳代謝させることが可能となっているのです。人間の骨が、造骨細胞と破骨細胞のはたらきによって、健康な状態を保っているように、こうして、Facebookのニュースフィードは常にフレッシュで正確な最新の人間関係を保っているのです。

では反対に、この機能がない多くのWebコミュニティでは、どのような推移をたどるのでしょうか?

新陳代謝がないと、Webコミュニティは硬直化していく

人間関係の新陳代謝が行われないコミュニティは、時間の経過とともに自分とは関係の薄い情報のあふれるサービスとなってしまいます。

疎遠になった友人の情報がニュースフィードに溢れ、本当に知りたい友人の情報は探しにくくなっていきます。疎遠な友人とのつながりを解消しようにも、その「つながり解除」が相手に知られてしまうのなら更に最悪で、ユーザーは友人に気を使って、その状況を解消することもできません。こうして、Webコミュニティは魅力を失っていきます。ユーザーに残された手段は、使うのを辞めるか、新しいIDで関係性を仕切りなおすか、別の新しいサービスに乗り換えるかしかありません。

mixiの難しさは、アカウントが携帯電話と紐付いていることから、ユーザーは新たに別IDを取得することが困難であることです。現状の友人関係をリセットしたくて、mixiを使い続けたいユーザーがいても、一度「退会」するしかないのです。

Twitterもmixiと同じく、フォローしている対象のツイートが全て流れてくるサービスですが、それでも魅力を失わないのは、IDが簡単に複数持てるので、仕事関係・趣味関係・匿名など、自分の必要なペルソナ(人間関係で特定の個人・集団に向けて演じられる仮想の自分)ごとに別IDでの運用が可能であることが奏功しているのだと僕は考えています。

この2年ほどで、mixiとFacebookの関係は、完全に逆転してしまいました。Facebookはただ新しいSNSだからユーザーに選ばれたわけではありません。人間関係とは何かといった、原初的な問いかけに回答が出せたSNSだから、ユーザーに選ばれているのです。

まとめ

元はてな副社長川崎氏のmixi役員入り人事の記事の中で、これまでのmixiについて幹部自ら以下のように話しています。

「競争環境が変わっていることは認めないといけない。9年前にはFacebookやTwitter、LINEはなかった。9年前に作った人間関係も変化している。今のユーザーのライフスタイルに適合したものかという課題はあるだろう」と、川崎さんは苦戦の背景を分析する。

 進学や就職など、ユーザーのライフステージによってソーシャルグラフは変容する中で「ユーザーの求める価値を提供しきれてなかった」(川崎さん)部分もある。現在のアクティブユーザーの中心は、都市部の若年層(10代~20代前半)で学生も多く、「人間関係が複雑化していない」(廣木さん)ライフステージにいる人だ。

一方で、「蓄積してきたユーザー同士のつながりが一番の強み」(廣木さん)でもある。「外部環境の変化で、その蓄積がわれわれを苦しめている側面もあるが、蓄積があるからこそできるコミュニケーションもある」(廣木さん)。

厳しい状況、どう立て直す ミクシィに新執行役員 元はてな副社長の川崎氏など (1/2) – ITmedia ニュース 

現状抱えているユーザーの使い勝手を維持することと、これからのユーザー獲得にむけたシステム変更の板挟みにmixiは置かれています。しかし、それ以上にmixiのまえに最も大きく立ちはだかっている障害は、「ミクシィはもう終わってしまった」という空気感が一部で形成されつつあるということです。ミクシィは、この空気に完全に包みこまれてしまう前に、生まれ変わることができるのでしょうか?