なぜMinecraftが売れ続けるのか – ソーシャル時代の収益モデルについて考える

金曜日のソーシャルメディアインサイトをお送りします。アクトゼロの黒沼です。

今日は、2010年10月に発売されて以来、世界で2500万人を超えるユーザーがプレイしているゲーム「Minecraft」についてお送りします。もちろんゲームそのもののコンセプトの素晴らしさもありますが、着実に売れ続けている一因として、プロモーションをネット上のユーザーに託すオープンな戦略があると僕は考えています。なぜ「Minecraft」がこれほどまでに愛されて、現在もなおそのファンを拡大し続けているのでしょうか?ソーシャル時代のコンテンツのあり方について考えてみました。

Minecraftはどんなゲーム?

このゲームの世界は主に立方体のブロックで構成されており、プレイヤーはそのブロックを自由に破壊したり設置したりすることができる。

立方体のブロックを設置したり破壊するソフトは数多くあるが、Minecraftは地上には草原、森、砂漠、雪原などのさまざまな気候(バイオーム)や地形が存在し、地下には洞窟が広がっていて、昼夜の概念もあり、プレイヤーはその世界で自由に生活できる。

ブロックともう一つ、重要な要素としてCrafting(工作)があり、ブロックやアイテムを組み合わせて、新しいブロックやアイテムを作ることができる(例:木の棒+石炭=たいまつ4本、原木をかまどで焼く=木炭)。 高い場所にブロックを設置するには足場を作る必要があったり、上位の発掘ツールを使用してより高度な素材を手に入れたり、耐久値のある道具を使うことで効率よくブロックを破壊できたり、敵の侵入を防ぐ為にアイテムを設置したり武器を作って倒したりするなど、ゲーム的な楽しさが追加されているのがMinecraftの大きな特徴と言える。

http://ja.wikipedia.org/wiki/Minecraft 

ゲーム内においてプレイヤーは基本的に「孤独」です。ゲームをスタートすると、ランダムで生成される地球8個分の面積を持つ世界の中に、ただ一人のプレイヤーとして現れます。周りにある資源ブロックを使って、住居や道具を作り、時にモンスターを撃退しながら生活していくのがゲームの基本的な楽しみ方です。ゲームにおいてストーリー的な要素はほぼ皆無と言っていい状況(一応ラスボスはいます)で、プレイヤーのなかには「おれは何をすればいいんだ?」と戸惑ってしまうプレイヤーもいる反面、その自由さを楽しめるプレイヤーにとっては、他のゲームには代えがたい魅力を持つ事となります。

友人を誘って、複数人で一時的に同じ世界で生活するマルチプレイには対応していますが、オンラインゲームのように不特定多数と常時同じ世界でプレイできるわけではないのです。

据え置きゲーム機のゲームソフトであれば、発売から数ヶ月の間で売上数が減衰し、ほぼゴール地点がみえるのが一般的ですが、「Minecraft」は時を経るにつれて売上速度を上げつづけています。ユーザーは、一度このゲームを購入すると永久にアップデートを受け続けることができます。ゲームシステムは常にアップデートされ、新しい要素が追加され続けることでユーザーは常に新鮮な世界をプレイ出来ます。

今流行のDLC(課金によるダウンロードコンテンツ)は存在しません。ユーザーは最初にゲームログイン用のIDを購入(日本円で約2,000円ほど)するだけで、この世界のすべてをいつまでも堪能することができるのです。

ユーザーは「ものを作る」、作ったものは誰かに「見せたくなる」

レゴブロックなどを楽しめるクリエイティブなプレイヤーならば、Minecraftでもきっと「巨大建造物」や「街」などすこし凝ったものを作りたくなります。なにしろ材料はいくらでもあり、自分の思うままに世界を作り上げることができるのです。しかし先ほどの通りゲーム内においてプレイヤーは「孤独」です。誰も作り上げたものに感想を述べてくれるわけではありません。となると、生身の人間に評価して欲しくなるものです。

Minecraftのプレイヤーの多くは、こうして作り上げたものをネット上でシェアします。Twitterのハッシュタグ「#Minecraft」上では、続々とこうした作品が発表さています。優れた作品はファンの間で広くリツイートされ、それらの作品に触れることで新たなファンがまたMinecraftの世界に参加することとなるのです。

Minecraft自体は閉じた世界で、プレイヤーは「孤独」です。ゲーム内で、他のユーザーが作ったものを評価しあう仕組みなどは実装されていません。しかしだからこそ、プレイヤーはゲームの外で作品を発表し、それらについて多くを語り合うのです。

Youtubeで他を圧倒する投稿数を誇るMinecraft関連動画

シェアされるのは何もTwitter上に限った話ではありません。もっと盛んにプレイヤー間で盛り上がっているのはYoutubeです。

Youtubeで最も投稿されているゲーム関連動画は何でしょうか?マリオシリーズでしょうか?海外で人気の高いHALOやCall of dutyシリーズでしょうか?僕が調べる限りでは、ぶっちぎりでMinecraftです。YoutubeにアップされているMinecraft関連動画は10,900,000件(2013/01/31現在)で、他を圧倒しています。マリオシリーズ全てでも約 4,000,000 件、Call of dutyシリーズ合計でもおよそ8,000,000件です。

これまで長年かけてブランドを築き上げてきた多くのゲームコンテンツの動画投稿数を、登場から数年で抜き去り多くのプレイヤーが自身のプレイ動画を投稿しているのです。

Yogscast公式Youtubeチャンネル

Twitter上での作品のシェアと同様、Youtubeではゲームをプレイしている様子がそのまま共有されています。Minecraft動画などで多くの人気シリーズを持つYoutube公式チャンネル[Yogscast]はゲーム実況の関連動画を通して収益を上げている有名チャンネルです。このチャンネル運営だけで累計17億PVを集めていることから日本円で数千万円規模の収益を上げていることが想定され、Youtubeからの収益だけで十分メンバーが生活していけることは間違いありません。(参考:YouTubeで年収数千万円を稼ぐ若者たち:In the looop:ITmedia オルタナティブ・ブログ

ゲーム実況動画で収益化となると、ゲーム開発元との握りが気になるところですが、Minecraftの利用規約には、以下の様な記述があります。

Any tools you write for the game from scratch belongs to you. Other than commercial use (unless specifically authorized by us in our brand and assets usage guidelines – for instance you are allowed to put ads on your YouTube videos containing Minecraft footage), you’re free to do whatever you want with screenshots and videos of the game, but don’t just rip art resources and pass them around, that’s no fun.

Minecraft Terms 

Minecraftのブランド規約に従うかぎり、プレイを録画した映像やキャプチャ画像の利用はプレイヤーに自由に許可されています。Youtube上にビデオを公開し、そこからユーザーが広告収入を得ることも許可されているのです。

多くのゲームメーカーが、実況動画の扱いについて否定的もしくは「黙認」という姿勢を貫いているにもかかわらず、Minecraftは明確にオープンな姿勢を打ち出しました。ユーザーはある日裁判所に呼び出される恐怖に怯えることなく、自由に自作のムービーを公開できるのです。

そしてMinecraftプレイヤーは増え続ける

Minecraftの勝利は、そのゲームの世界観にありました。ストーリーがなく、ゴールがないから、プレイヤーはその世界で自分たちだけのストーリーを作り上げていく。

ゲーム内では「孤独」で、「孤独」だからこそそのストーリーを現実世界で「シェア」する。

そして開発者側は、その「シェア」を妨げることなくオープンな姿勢を表明する。

Minecraftの世界に触れた視聴者の一部が、新たな購入者となりMinecraftの世界への入場パスの代金を払う。

Minecraftのゲームシステムは、売り切りではなく永遠にアップデートされていくので、参加する誰もがどこで参加しても最新のゲームシステムを享受できる。

据え置きゲームでもない、ソーシャルゲームでもない、今の時代に合ったもう一つのコンテンツ収益モデルの可能性をMinecraftは示しているのです。