ここ数年で、Web動画サービスの勢力図が大きく変化しています。日本勢としては、LINEによる「LINE LIVE」や、サイバーエージェントとテレビ朝日の出資により設立された「AbemaTV」といった、動画コンテンツを楽しむことができるサービスが展開されたり、海外からは動画のサブスクリプションサービスである、「Netflix」や「Hulu」・「Amazonプライム・ビデオ」といったサービスが人気を博しています。
一方で、これまでの既存のサービスは厳しい生き残り競争を強いられています。国内発のWeb動画サービスの一強「ニコニコ動画」の有料会員サービス「プレミアム会員」が、2006年のサービス開始以来初めて減少に転じたことが伝えられました。
カドカワの平成29年3月期第三四半期決算短信によると、2016年12月末時点でのプレミアム会員数は252万人。9月末時点の発表では256万人となっており、約4万人の減少となりました。
ニコニコ動画、プレミアム会員数が初の減少(ニコニコニュース 2017/2/9)
こうした情勢を背景に、Facebookが先日、フィード上での動画再生時にデフォルトで音声ありで再生されるように仕様を変更したり、縦型動画のフル画面表示などといった、動画に関するアップデートを発表しました。
その中でも、特に注目すべき内容は、「Apple TV」やAmazonの「Fire TV」等の、セットトップボックス向けのアプリをリリースすることによって、Facebook動画をテレビ上での視聴に対応させるという動きです。
ソーシャルネットワークのFacebookは米国時間2月14日、「Apple TV」、Amazonの「Fire TV」、「Samsung Smart TV」といったセットトップボックス向けのアプリをリリースすると発表した。
このアプリにより、通常はFacebookで視聴するあらゆる動画がより大きな画面で視聴できるようになる。これには、「Facebook Live」の動画や、友人やブランドがFacebook上にアップロードした動画が含まれる。
Facebook動画がテレビにやって来る–「Apple TV」などSTB向けアプリが公開へ(Cnet Japan 2017/2/15)
Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOは、今後の方針として「動画ファースト」戦略を掲げて、動画の視聴、そして広告出稿側からの要求に対応するために今後も動画に関するサービスの拡充をアナウンスしています。
Facebookが図るリビングルームへの進出
視聴する動画はテレビ番組からWeb動画へ、視聴スタイルが”家族と共に”から”個人単位”へ、デバイスもテレビ・PCからスマホへ転換しつづけていると言われています。Webがテレビというメディアを喰い続けているとは言われてはいますが、未だ米国のテレビ広告市場は700億ドル規模に及び、他のメディアとは比較にならない程の規模を誇っており、まだテレビというメディアは私たちにとって重要な位置を占めています。
Web動画が成長するには、テレビとの勝負は避けて通れない道です。
米国で行われた、動画サブスクリプションサービス加入者に対して行われた調査では、それぞれのサービスの印象について、海外で人気の高いサービスであるNetflix・Huluは「TV上で視聴しやすい」という項目が高い割合を占めていることが分かります。
(People think Netflix makes more interesting originals than rivals like HBO and Amazon BUSINESS INSIDER 2017/2/1より)
特に欧米においては、個々の家族が個室にこもるよりも、家族とともにリビングルームで過ごす傾向が強いため、テレビで視聴でき、家族など複数人とともに動画を視聴できるかどうかは、重要なポイントの一つだといえるのでしょう。
まだ、Web動画をテレビ上で視聴する傾向が少ない日本において、そのスタイルは定着していくのでしょうか?それを読み解くヒントの一つが、株式会社リクルートホールディングスによって発表された、住まいに関する2017年のトレンド予測の中にありました。
リビングを最大に広げて多用途に使い、空間は共有しながらも各々が充実した時間を過ごす「リビ充家族」が増えてきている。
今年の調査によると、「リビングの広さ」を「妥協したくない・確保したい」と思っている家族は7割近く存在する。それに対して、「主寝室の広さ」にこだわる家族はわずか2割と、間取りにおいては「リビングMAX化、個室min化」が進んでいる。
住まい・社会人学習・進学・美容など8領域の新たな兆し 2017年のトレンド予測を発表(株式会社リクルートホールディングス 2016/12/13)
2016年は、リモートワークを取り入れる会社が増加したり、可動性のあるリビング多機能化ツールが登場したことを背景に、2017年は、仕事の場を含めた「リビングの多機能化」が一層進むと予測しています。例えば、リビングに仕事用のワークデスクや、子供の勉強デスクを設置して、仕事や勉強の場にする傾向がより強まると考えられます。
また、家族のうち、夫婦は1日の8割前後をリビングで過ごし、子供たちにおいては、年齢とともにリビング滞在時間は減るものの、高校生でも1日のほぼ半分はリビングで過ごしている統計が紹介されています。
更に、夫・妻がそれぞれリビングですることとして挙げられているグラフでは、様々な項目が挙げられていますが、”スマホ・携帯・タブレットを使う” ”テレビを見る”が上位に挙げられています。
つまり、これらの傾向を踏まえると、リビングを最大に広げて空間は共有し、家族で共有する時間を過ごしたり、各々が好きなことを行ったりと、リビングで長い時間、多様なことを行って過ごす姿が浮き彫りになってきます。つまり、テレビを家族共同で視聴するスタイル自体はこの先も続くことが考えられます。その時の選択肢として、テレビ番組だけでなく、Web動画も選択肢に含まれる可能性があります。
Facebook上では現在、1日に平均して80億回動画が再生されているというデータがあり、さらに昨年末頃からFacebookもオリジナルの動画コンテンツを制作する可能性について報じられ始めています。Facebookが本格的にテレビを喰うためには、Facebookを閲覧するデバイスとしてテレビに対応し、リビングルームに進出するのはマストであり、今回のアップデートの内容、特にFacebookがテレビを見る前提でコンテンツを広げていく戦略は当然の流れなのです。