YouTube視聴者によるクリエイター支援機能「Super Chat」、個人間少額決済の今

1月13日、YouTubeが、クリエイターを支援するための新しい機能「Super Chat」を公開することを発表しました。

YouTubeヘルプ より

これは、ライブ動画配信中にリアルタイムで視聴者と配信者がコミュニケーションしながら送金できる機能です。この機能をオンにすると、画面右下に「$」マークが表示され、視聴者は配信者にメッセージとともに任意の金額を送金することができます。この時のコメントはハイライト表示されて固定表示することができます。ハイライトの色や固定表示できる時間の長さは、送金額に応じて決定されます。そのため、人気の配信者からより良い反応をもらうために、視聴者はより高額の支援をしたくなるという心理が働くのではないでしょうか。

現在はβ版がスタートしており、1月31日には日本を含む20ヶ国の配信者と40ヶ国以上の視聴者へ対象範囲が拡大する予定です。現状では、PCからかAndroidのYouTubeアプリで利用でき、まだiOSには対応していません。

ちなみに、これまでも「Fan Funding」と呼ばれる、視聴者の自由意志による支払いでのクリエイターへのサポート機能がありましたが、そちらは2月中に廃止される予定です。

動画クリエイターにとって、この「Super Chat」は、一つの重要な収入源となるだけではなく、制作に対する大きなモチベーションになるのではないでしょうか。そして、Webサービス側がこのようなプラットフォームを設けて個人間の小額決済を代行してくれる意味は大きいのです。

個人間の小額決済

クリエイターの成果物に対して金銭を支払うことは、個人間の小額決済にあたります。決済の手段ですぐに思いつくのが銀行振込ですが、その場合だと、振込手数料が数百円かかってしまい、少額決済の際には使いづらい難点があります。

現金を普通郵便で郵送することは昔も今も禁止されていますが、Web上での決済が一般的ではなかった1990年代までは、普通郵便による小額決済は、郵便窓口で手数料を支払って購入・換金する定額小為替や、金額相当の切手を郵送するなどの手段が主流でした。かつての同人誌の売買などの創作活動においてよく用いられていた手法です。

50~1000円の間で数種類の額面の証書があり、発行日から6ヶ月以内有効。
http://www.jp-bank.japanpost.jp/kojin/sokin/hikoza/kj_sk_hkz_kogawase.html

やがてWebが発展して、2002年には日本においてネットショッピングを利用する世帯の割合が5.3%に達し、2000年代初頭には徐々にWeb上での決済が一般的になり始めました。丁度その頃、読者にとって優良で質の高いコンテンツを制作した発信者に対して手軽に寄付する行為「Web投げ銭」という発想が生まれました。1ドルや100円といった少額の金銭をWebを通して支払うことによって、本来は対価を支払う義務が無いコンテンツに対しても感謝や支援の意思を表すことを目的とした行為のことです。(参考:ろじっくぱらだいす Web投げ銭について

小額決済といって、すぐに思いつくのがPayPalです。クレジットカード決済の代行サービスで、かつては多くのブログでWeb投げ銭用のPayPalへのリンクボタンなどが設けられて活用されていましたが、現在ではこの方式がNGとなっています。

と、いうのも、2010年4月1日に施行された「貸金決済法」により、国内の個人間での送受金が禁止されたためです。

PayPalが国内の個人間送金を一時停止、「資金決済法」施行に伴い

今回のPayPalの措置は、4月1日に「資金決済法(資金決済に関する法律)」が施行されることに伴うもの。資金決済法の施行により、これまで銀行のみに認められてきた送金などの為替取引が、少額の取引に限って、「資金移動業者」として登録された企業にも認められるようになる。

PayPalの個人間送金サービスもこの法律の範囲に含まれることとなるため、PayPalでは資金移動業者として登録されるまでの間、国内における商用以外でのPayPalの利用を当面停止すると説明。この措置は生活費の仕送りなど商用以外の支払いが対象となり、オンラインショッピングなど商用目的での利用や、国外から国内への個人間支払いは従来通り行える。

(2010.3.30 http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/357897.html

現在、Web上で個人間の送受金を行うプラットフォームとして思いつくのが、「LINE Pay」です。

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LINE Pay

ですが、こちらはどちらかというと、飲み代などの割勘など、仲間内での送受金を想定したサービスなので、プライベートとは一線を画してWebで公開しているコンテンツに対し、広く不特定多数から金銭を授受することには適していません。(基本的には、皆が一度、友達になる必要がありますからね…。)

では、Web上のコンテンツに対し、金銭の授受を実現できるプラットフォームは現在無いのかといえば、無い訳ではありません。YggDore(ユグドア)は、クレジットカード決済の代行サービスです。

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http://www.yggdore.com/

「お気に入りのホームページに”チップ”を贈る」というコンセプトで、チップは匿名で贈ったり、受け取ることができます。ただ、送金側・授受側ともにサービスの登録が必要で、送金時には手数料が、授受側は銀行振込で受け取るため、銀行の引き出し手数料がかかります。送受金にやや手間がかかりますが、このようなプラットフォームを活用することで、冒頭のYouTubeとは異なって、サービス側に個人間の小額決済機能が無い場合でも、それに近いことが実現することができます。

近年の個人間送金のトレンドは”Amazonギフト券”

近年では、これまでのように、Web上での個人間の小額決済では手数料が発生したりする関係で行いづらい実情があります。そこで、最近よく使われる手段が「Amazonギフト券」による決済です。

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Amazonギフト券

Amazonギフト券とは、百貨店の商品券のように、紙でできた金券ではなく、メールなどを通してその人のAmazonアカウントにチャージさせるものになります。(goo辞書によると、券の意味は「金銭などの代わりに約束の印とする紙片」とあるので、券とは何ぞやと個人的には思いますが…。) 手数料は無料なので、送り主・受取主ともに負担がなく、気軽に使うことができます。

金額は最低15円から、最大50万円まで。しかも、通常の金券の場合、500円、1000円…などのようにキリの良い金額分しか準備されていませんが、15円以上であれば任意の金額が指定・入力可能です。添えるイラストも、「誕生日おめでとう!」などのようなテンプレートがいくつか準備されていたり、自分で任意に画像を作ることもできるようです。

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試しに、自分で自分に最低金額15円を入力して贈ってみました

贈るタイミングも誕生日や記念日などのような指定したい日時に決めることができます。ギフト券はメールの形式で送られ、ギフト券番号とともにイラストとメッセージが送られてきます。

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贈られた側は、メール中の「アカウントに登録する」のリンクから、自分のAmazonアカウントに贈られた金額をチャージすることができ、更に送り主に対してお礼のメールを送付することができます。ちなみに、贈られた方がアカウントに金額を追加すると、贈った側にはAmazonから自動的に追加されたメールが送付されるので、きちんと受け取られたことが確認することができます。(ですので、贈られた側は、きちんと追加後にお礼メールを送った方が良いですよ!)

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勿論、送り側・受け取り側ともにAmazonにアカウントを持っており、日常的に使っていることが前提となりますが、手数料無料という点と、相手のメールアドレスさえ分かれば送金が可能という点から、非常に個人間の小額決済には好都合だと思います。また、Webコンテンツに対するクリエイターへの支援以外にも、個人間の少額のお金の貸し借り、例えば”同僚とランチを食べに行ったが財布を忘れたので、ランチ代780円を借りた”といったようなときでも、その場でスマホから端数の金額まできっちりAmazonギフト券で返すといった使い方もできますね。

ただし、Web上に公開したコンテンツに対して支援の意味でAmazonギフト券を受け取った場合、日本の税制上金銭の授受にあたり、個人事業主の場合は売上に計上する必要があり、会社から給料を受けているサラリーマンの場合は雑所得にあたるので、利益が20万円以上を超えると申告しなければならないので注意が必要です。

今回、YouTubeが提供した機能である「Super Chat」のように、Webサービス側が個人間での小額決済機能を設けたことの意味は強いですが、そうした機能が無いプラットフォーム上で活躍するクリエイターを金銭的に支援する手段はいろいろありそうです。