ソーシャルメディアインサイトです。今日は何かと話題の画像SNS「Pinterest(ピンタレスト)」の企業活用について考えてみます。濃密な翻訳記事でおなじみの、SEO Japanさんの記事「Pinterest(ピンタレスト)マーケティングの全て | SEO Japan 」にPinterest企業活用の概要についてとても良くまとまっていたので、今回このエントリーではその中でも紹介されていたGAPの活用事例とPinterestの仕組みについて細かく見ていきたいと考えています。グローバルブランドGAPはどのような姿勢でPinterestを通してユーザーと向き合っているのでしょうか?
GAPアカウントの概要
GAPアカウントのフォロワー数は、「2143 followers」(以下すべて2012/02/17調べ)です。GAPの知名度から考えると、とても少ないように感じますが、そもそもこれは、Pinterestのサービス特性によるところが大きいと考えられます。Pinterestでは、Twitterのようにアカウント単位でフォローできる以外に、そのアカウントが持っているBoard(特定テーマの写真グループのようなもの)単位でフォローすることが可能です。さらに、写真単位でRepin(TwitterでいうRTのような機能)することもできるため、自分の本当に興味のある・共感できる単位で、フォローに近い行動をとれてしまうため、そのアカウントまるごとをフォローする理由があまりないのです。
ユーザーは特定のボード(例えば「ウェディング」とか「空」とか「私の猫」とか)単位でフォローが可能
GAPが抱えているBoardそれぞれのフォロワー数は以下のとおりです。[青は低調、赤は人気]
- Styld.by [2958 followers, 20 pins]
- Everybody In Gap [4289 followers, 38 pins]
- Spring Collection 2012 [2843 followers, 19 pins]
- Denim Icons [2296 followers, 16 pins]
- GapFit: Motivation to Get Fit [2842 followers, 19 pins]
- Denim Inspired [3239 followers, 23 pins]
- Popular Gap Images on Pinterest [3821 followers, 15 pins]
- Snowball [4071 followers, 25 pins]
- I Want Candy [4168 followers, 14 pins]
- Holiday Gift Guide 2011 [3837 followers, 20 pins]
個人が気に入った写真に対して取れる行動にもバリエーションがあります。
- Repin:他人のボードにある画像を自分のボードに貼りつける(twitterのRTのように)
- Like:気に入った画像にLike!を表明できます
- Comment:画像に対する個別にコメントを残せます
Boardの中身
GAPで展開しているBoardはどんなものがあるのでしょうか?大きく分けるとこんな感じです。
[ストレートな自社商品紹介]
- Styld.by [GAP商品の着こなしヒントとなるサイトStyld.byからの写真引用]
- Spring Collection 2012 [ストレートな新作コレクション]
- GapFit: Motivation to Get Fit [フィットネス用のGAP商品ライン紹介]
- Holiday Gift Guide 2011 [2011ホリデーシーズン用のギフト商品ガイド]
↑自社の商品画像やモデルの画像を単純に投稿するためのBoard。ユーザーのRepinもFollowも少なめです。
[ユーザーを巻き込む形のBoardテーマ]
- Everybody In Gap [Gapの服を着た一般ユーザーのスナップ紹介]
↑もっともFollow数の多いコンテンツで、Pinterest上でもよく共有されているファッションスナップの要素と商品紹介がうまく重なったコンテンツです。
[写真によって商品イメージを拡張するBoardテーマ]
- Denim Icons [デニムを着た著名人・カリスマの肖像]
- Denim Inspired [デニム素材を使った珍しいグッズの紹介]
↑デニムという切り口でイメージ向上を狙うコンテンツです。GAPの商品は登場しません。Follow数も普通です。
[PinterestユーザーにあわせたBoardテーマ]
- Popular Gap Images on Pinterest [Pinterest上のGAP人気画像]
- Snowball [雪をテーマにした写真たち+寒い季節にぴったりのGAPアウターの紹介]
- I Want Candy [カラフルなキャンディ画像+カラフルな子供向けラインアップの紹介]
↑それぞれ人気のあるコンテンツで「Popular Gap Images on Pinterest」はPinterest上で人気のあった商品を紹介するコンテンツです。とりあえずここは抑えておこうかなというファンの心理が見えるような気がします。Snowball・I Want Candyはそれぞれタイトルにあったテーマの画像(雪だったりキャンディだったり)がメインのBoardで、そのテーマに矛盾しない範囲で商品紹介が行われているPinterestユーザーの楽しみ方に、合わせに行ったコンテンツです。
GAPですらまだ、模索中?
まとめると、商品の紹介をするとFollowが伸びず、商品の紹介をしないと人気のBoardとなる、そんな難しいPinterest運営の実態が見える気がします。誰だって「宣伝だとわかっている写真を共有したくはない」といった感じでしょうか。そんな中で、SnowballやI want CandyなどのBoardでは、テーマにあった写真をPinしつつ商品の画像を混ぜていくという手段でコミュニケーションの可能性を探っているようです。
FacebookやTwitterなど、ソーシャルメディアの企業活用時には、企業とユーザーがどれだけ一緒に楽しめるか(共感できる価値を認識できるか)と言った部分がすごく大事なのですが、Pinterestは共有されるコンテンツ単位が「1枚の画像」だからこそ、その共感を「1枚の画像」を通して行う必要がある部分に可能性と難しさを感じます。ただのモデルが着た、いかにもな商品画像より、そのへんの普通の人間がGAPを着たスナップのほうが共有されることからも、企業の「こう見せたい!」といったプロモーションの思惑は、ソーシャルメディア一般ユーザーの価値からは、かけ離れているということがわかります。というわけで、「一枚の画像」を使ってこの難題に答えられる企業は、とても限られてくると考えています。ビジュアル表現に向いた業界でないとPinterest上ではそのプロモーションの価値を発揮しにくいのではないかと思います。GAPですらその解を、まだ手探りで探している状況なのです。
ソーシャルメディアという、プライベートな価値空間の中で、企業のプロモーションはその価値観のなかに、自身の存在意義を見つけ拡大していくほかない。
そしてここからは「蛇足」です。
と、ここまで話して、でもこれって何もソーシャルメディアに限った話じゃないのでは?という気もしてきます。たとえば「広告」の歴史のなかではきっと、このような段階は(ユーザーの価値空間の中で企業の存在意義を見つけ、そこを起点にコミュニケーションを取る、あるいはもっとスマートなやりかた)は過去に超えてきた部分だと思うのです。ソーシャルメディアの登場で、企業とユーザーの直接的接触が継続的に可能になったので改めて、その方法論について現場レベルで再確認や議論が行われて、新しい発見に見えたりしているだけなのだと、僕は考えています。
業界界隈では、「広告」と「ソーシャル」が対立軸のように語られている様子があちこちでみられます。実際「広告」に使われていた予算が「ソーシャルメディア運用」に割り当てられることも多いです。そういう意味では対立関係にあるのかもしれません。
また、企業とユーザーのコミュニケーション手法に無自覚なネットマーケターによるソーシャルメディア企業活用の提案が、圧倒的に歴史と蓄積のある「広告」業界から見ると、幼稚で浅はかなものに映るのは無理もない事かなと思います。そして、ソーシャルが実力以上にもてはやされることを複雑な思いでみている「広告」業界の人も多いのだろうと思います。
ソーシャルメディアは複雑です。理解するにもクリエイティブをおこなうにも、技術的な新しさが「広告」業界の方の参入障壁となっている状況が、今だと思います。ぼくは企業とユーザーのコミュニケーションを長らく担ってきた「広告」世界の蓄積は、きっとソーシャルメディアにこそ必要なものだと考えています。ポジションを超えてあらゆる知識をうまく使いこなせる人が、よりフレッシュで価値のあるコミュニケーションを実現していくのだろうなと思います。