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ネットにあふれるコンテンツ、スーパースターが生まれない時代

capt

みなさまこんにちは、アクトゼロの黒沼(@torukuronuma)です。

昨日匿名はてなダイアリー上でこのエントリーが話題になっていました。

漫画家やめたい

子供の頃からの夢だった漫画家。

35になった今、ホント割にあわねーなって思う。

好きで選んだ道だけど
こんなに割に合わないとは思わなかったよ。

ジャンプですら今や新人単行本初版は3万。短期打ち切りだと3巻で9万。360万だよ、印税。

http://anond.hatelabo.jp/20141026101200

その後、最終的には編集者の高給や出版社への怨嗟へとつながっていくのですが、マンガを取り囲む業界のきつさはよく伝わってくる文章でした。

プラットフォームのデジタル化がもたらす作品数の爆発的増加

manga

マンガボックスComico(コミコ)など無料で漫画が読めるアプリが人気です。無料アプリのお陰で、漫画雑誌での連載経験のない作家の中にも、人気作家が生まれつつ有ります。各出版社も自社のマンガ雑誌名を冠したネットサービスや漫画アプリを続々リリース、これを追撃しています。

漫画アプリやpixivのような漫画作品を公開できるデジタルプラットフォームが登場する以前、漫画家になるには掲載枠の限られた漫画雑誌上でデビューするしかありませんでした。他の手段で漫画家になる事ができないということは、漫画作品数自体にキャップがかかっている状態とも言えます。読者は漫画雑誌に連載している限られた作品の中からしか、自分が読む作品を選ぶことが出来ませんでした。ところが、漫画のデジタルプラットフォーム化は、漫画雑誌にあった誌面のページ数の限界を取り去り、印刷代などの諸経費もかからないことから、「少しでも可能性のある作品ならば、とりあえず公開する」ということが可能になりました。

読者が漫画を読むことに割ける物理的な時間が大きく増えない限り、作品数の爆発的増加はこれまで漫画雑誌上で連載されていた作品グループからファンを奪います。大ヒットは生まれにくくなり、「同世代なら誰もが知っている作品」はどんどん少なくなっていきます。デジタルプラットフォーム化によって、今では読みきれないほどの作品がネット・アプリ上に無料に近い形で公開され、それぞれに独立した小さなファンが付く時代となってしまったのです。

マンガに限ったことではありません、音楽の世界でもYouTube、myspace、soundcloud上などで、だれでも音楽をオープンに共有することが可能になりました。iTunesの登場はインディーズのクリエイターにもネット配信を可能にしましたし、ニコニコ上では無料で聴けるボカロ・歌い手文化のようなものも生まれています。クリエイターにとっては、レコード会社に所属不要で作品発表が可能で、ネット経由でファンコミュニティを維持しやすい時代となりました。結果的に起きたのはマンガ同様「同世代なら誰もが知っている作品」の喪失と、小さなファンに支えられる小規模ファンコミュニティの乱立です。そう考えると月額制のサブスクリプション配信(月額課金で大量の音楽の聴き放題)はユーザーにとっては理にかなった仕組みのように思えます。※アーティストにとってはつらそうですが…。

一芸に秀でた人にとっても、今はチャンスの時代かもしれません。芸能事務所に所属してテレビで有名にならなくてもYouTubeがあります。日本国内でも人気ユーチューバーになれれば年収は億を越えます。テレビタレントに比する収入を得ることだって可能なのです。

時代を代表するスターはもう居ない

ラジオやテレビなど、生活者が同じメディアを同じように消費し、そこに流通するコンテンツ量が限定的だった時代。数多くの、時代を代表するスターが生まれました。流行歌は世代を超えて歌い継がれ、いまだに黄金時代と呼ばれるマンガ作品群が愛されつづけています。

「今と違って、昔は作品自体の完成度が高かったんだ」という人も多くいます。しかしこれへの賛成も反論も、証明しようがないので一度脇に置くとします。僕は、コンテンツ消費はコンテンツそのものの完成度以上にそれがコミュニケーションの道具として便利だったかどうかに価値があったのではないかと思います。共通の話題になるからこそ作品の楽しさが倍増する。作品世界の共通認識を通して「意味」の交換ができる。その豊かさが流行を流行として機能させていたような気がします。

いま、メディア消費のスタイルは世代でばらばらです。10代と20代ですら同じようにはメディアを消費していません。さらに作品群の充実は、個人の嗜好にあった無限のバリエーションと数多くの小さなスターたちを産みました。しかし同時に、時代を代表するスターはもう現れることはないのかもしれない。と考えると、少し、さびしく感じますが。

[アクトゼロ/黒沼(@torukuronuma)]