(このエントリーはビジネスジャーナルに2014/07/10掲載された記事のオリジナル原稿です。 )
金曜日のネットマーケティングレポートをお送りします。
アクトゼロの黒沼(@torukuronuma)です。
国家を代表する商品ブランドは、消費者から特別な愛着を持って消費されます。日本の航空業界では、ナショナルフラッグキャリアとして永く愛されてきたJALが会社更生法適用の後、業務規模を縮小を進めました。2014年6月の朝日新聞上では、国際線の便数で、JALをANAが上回るという報道とともに、「ナショナルフラッグキャリアの交代」が起きたという報道もなされています。
同様にカナダにおけるビール市場では、モルソン社とラバット社の2社がビール市場のトップシェアを競い合っています。今回はそんな中、ナショナルビールブランドとしてのブランディングを強める、モルソンビールの取り組みをご紹介します。
The Beer Fridge – O Canada | Molson Canadian
本編動画はこちらからご覧いただけます。
カナダの森のなかを真っ赤な冷蔵庫が運ばれていきます。
冷蔵庫には、【オー・カナダを歌って冷蔵庫を開けよう】と書かれています。オー・カナダはカナダの国歌です。
カナダの港や…、
美しい森のなか、
街角で、
国歌を歌う輪は広がっていきます。
ついに冷蔵庫が開きました。中にはモルソンビールがぎっしりです。
歌いあげた全員で喜びを分け合います。
メインコピーです。「ハッピーバースデイカナダ」7月1日はカナダの建国記念日です。
モルソンカナディアンのブランド名へと切り替わります。
愛国心マーケティングと消費
CM構成も、自然と愛国心をくすぐる編集がおこなわれています。視聴者は最初、バイラル動画広告でお決まりのイベント型のサプライズ動画だと思ってみています。「国歌を正しく歌うことで、何かが起きるんだな―」くらいの感じで見ていると、バラバラな歌声がひとつの歌声となって繋がりだし、最後は大勢で国歌を歌いあげる映像へと変わっていきます。動画の最後でカナダ建国を祝うメッセージとともに、自社ブランドが明かされることで、モルソン社と「カナダ」という国家イメージが力強く結びつくのです。
愛国心を上手く刺激することで、マーケットシェアを取り戻した事例としては、ルーマニアのチョコレート菓子「ROM」の炎上マーケティングが上げられます。
The American Rom – Campaign Presentation
「ROM」は歴代パッケージにルーマニアの国旗をあしらった歴史あるチョコレート菓子でした。しかし若者からは「古臭いお菓子」として認識されており、後進の「SNICKERS」などにそのシェアを追われていました。そんな中、ROMはパッケージのルーマニア国旗をアメリカ国旗に変え、英語で大々的なリニューアルキャンペーンを打つのです。
昔から馴染みのある「ROM」が急にアメリカナイズされたことに、国民は猛反発。ニュース番組にも取り上げられ、ROMの変化に起こったルーマニアの消費者はソーシャルメディアやYouTubeで「ROM」にまつわる議論を活発化させていきます。そして、盛り上がりがピークになった瞬間。ROMはこのリニューアルが一時的なもので、ジョークだったことを告げます。かくして、ルーマニアにおける”ナショナルチョコレートと”しての盤石の地位をROMは獲得し、チョコレート市場におけるシェアをとりもどしたのです。
日本における愛国心マーケティングのこれから
日本国内においても内閣府調査で、20代30代を中心に「愛国心が強い」と答える割合が増加傾向に有り、テレビ番組でも「(世界における)日本」をキーワードとした番組が軒並み好調です。この変化をキャッチするように、日清食品が「SAMURAI, FUJIYAMA, CUPNOODLE」という切り口で国内ブランディングを進めるなど、「海外から見たちょっと変わった日本」という視点を上手く取り込んだマーケティングが増加しています。
日本で本格的な愛国心マーケティングが行われる日も近いのかもしれません。
(アクトゼロ/黒沼透)