個人情報と結びついた匿名SNS「Secret」でソーシャル疲れは軽減される?

アクトゼロの藤村です。火曜日のプランナーズブログをお届けします。

「ソーシャル疲れ」という言葉を、数年前から度々耳にするようになりました。
フォロワー数が少ないことにさみしくなったり、いいね!の数に一喜一憂したり、既読がついているのにレスポンスがもらえず不安になったりするという、アレです。

一見、オープンに開けた活発なコミュニケーションの場に思えるSNSの「闇」は、アクティブにこれらを活用するユーザーの誰しもが、一度は感じたことがあるのではないでしょうか。
いいね!やコメントを頻繁にやりとりしないことで、リアルでの対人関係にすら影響を及ぼすこともあるという、完全実名制のFacebookを筆頭に、Google検索のサジェストの殆どがネガティブなワードになってしまっているLINEの既読システム。
比較的匿名性の高いTwitterですら、「私のことちょっとでも好きならRT」や「私がいなくなったら少しでもさみしいと思ってくれる人RT」といった、少々中の人の精神状態が心配になるようなハッシュタグを散見します。

フォロワー数=人気者の証、といった価値観も、10~20代のユーザーを中心に、強く見られる傾向のひとつであるといえるでしょう。
a
 
ツールであるはずのSNSに、煩わしさを感じ、振り回され、憂鬱になってしまう人々は、ここ数年間で爆発的に増加しているといわれています。

そんななか、米新興企業Secretは現地時間の1月30日、完全匿名性の新しいソーシャルネットワークサービス「Secret」をリリースしました。

「Secret」とはどんなサービスなのか

002

「Secret」のタイムラインは一枚の画像とテキスト情報だけのシンプルな投稿で構成されており、各記事にはいいね!の代替としてハートマークをつけられるほか、コメントを寄せることもできます。
投稿した内容はまず、友達のアカウントにのみ公開され、友達がハートマークを付けた記事のみが、友達の友達へ…という仕組みで拡散されていきます。
他SNSとの大きな違いは、アカウントネームやアイコン画像など、個人を特定する要素が一つも存在しないことです。

001

実際の見え方

Mediumに投稿された発表文によると、Secretは批評や判断される心配なく自由に自分の意見や感情を表現するためのサービスという。匿名にすることで、気取ったり取り繕うことなく、飾らない考えや感情を投稿できるとしている。
引用:ITmedia ニュース

本サービスで最も面白いのは、完全匿名性をうたっていながら、「電話番号あるいはメールアドレスからサインアップ」しなければ利用できないという点。
この時点で、少なくとも「Secret」運営サイドへの匿名性においては、存在しないに等しいと思うのですが…。

更に奇妙なのは、サインアップ時に端末内から連絡先データを自動的に抽出し、「Secret」上で「友達」として繋がってしまうという仕様です。
もちろん匿名SNSなので、繋がっている「友達」が誰であるのか、知ることはできません。極論からいえば、「友達」が両親なのか、上司なのか、恋人なのか、それすらわからない状態でサービスを利用することになります。(とはいえ、本サービスはiOS対応に限られた仕様なので、使用端末からおおよそ絞り込めてしまうのでは?とも思います…)

ソーシャル疲れから解放され、ありのままの自分を表現することができるプラットフォームとしてリリースされたはずの「Secret」。
しかし、実際の利用には電話番号やメールアドレスなどの個人情報のコネクトが必須となり、なおかつ投稿内容を見ることができるのはリアルで連絡先を交換している知り合いの面々。
なんだか不思議な矛盾を感じるのは、私だけでしょうか。

ソーシャル疲れが匿名SNSの再台頭を加速させる=無限ループ

アカウントを取得しアイコンを設定した時点で、そのチャネルには自分の分身ともいえる、もう一つの存在が生成されることになります。
私は、アカウントとしてサービス上にひとつの人格が生まれれば、そこに「より良く見せたい」という演出心や、「もっとたくさんの人に認められたい」という願望が、必ず派生してくるものだと考えます。
そしてそれは、匿名であることや、アイコンの有無といったものに左右されるほど、単純なものではないように思えるのです。
自分の投稿にハートやコメントがたくさんついたら、きっと投稿者は嬉しい気持ちになるでしょう。
もっとたくさんの人に自分の投稿を見てもらいたい、コメントを寄せてほしいと、投稿内容を推敲し写真のクオリティに拘ります。
結果、結局はその投稿に寄せられる反応に、一喜一憂するサイクルが誕生するのではないでしょうか。
そして、匿名サービスで「人気アカウントの中の人」となったユーザーが、より強い充足感を得るためには、人気発信者が自分であることを認識してもらうための、「名前」が欲しくなるのです。

また、ソーシャルメディアサービスの普及には、利用の原動力となるユーザー間での競争意識が必要不可欠であると感じています。
「批評や判断される心配なく自由に自分の意見や感情を表現するためのサービス」である筈なのに、「Secret」がコメント機能をつけたり、支持数を見える化した理由は、そこにあるのかもしれません。

「ソーシャル疲れ」から匿名性の高いサービスに移り住んで羽を休め、刺激や満足を求めて再び実名制のサービスへ戻っていく…SNSサービスを適当なバランスで利用できないユーザーは、抜けだすことのできない、無限ループにはまってしまいます。
SNSで感じた疲労感を癒すために新たなSNSを求めるサイクルには、なんだか少し違和感を感じざるを得ません。

匿名だけどリアルと密接にコネクトしている「Secret」サービス、皆様はどう思われますか?
国内でいえば、もっと手軽で巨大でユーザーに浸透している「2ちゃんねる」もありますし…
私は「Secret」が日本で市民権を得るのは難しいのではないかと考えていますが、いかがでしょうか。

米国でリリースされたばかりの本サービス、今後の動向が気になるところです。