初めまして。アクトゼロプランナーの藤村です。
これから毎週火曜日、ソーシャルメディアまわりのフレッシュな話題についてお届けします。
さて。去る10月4日、とある“実在しない架空の人物”の誕生日を祝う人々で、twitterのTLが大変賑やかになったことを ご存知の方も多いのではないでしょうか。
恐らく今年、日本で最も沢山の人々に誕生日を祝福された中学生であることは間違いありません。
当日筆者は海外に滞在していたため、帰国後のTLの大騒ぎぶりに驚きました…。
ホットワードを独占した『跡部景吾』とは?
一部ファンの間でカルト的な人気を誇る「テニスの王子様」に登場するキャラクター。
氷帝学園中テニス部200人の頂点に立ち、「オールラウンダーの中のオールラウンダー」と呼ばれる凄腕プレイヤーで、学園に多額の寄付を行っている「跡部財閥」の御曹司で、テニスの本場である英国育ち。
決め台詞は「俺様の美技に酔いな」。
(参照:Wikipedia)
テニスも強くてなおかつお金持ちの帰国子女です。完璧です。
今年も10月4日の誕生日当日を控えて、興奮を隠しきれないファンのツイートは前日3日頃からぽろぽろとTL上に現れてきました。
(誕生日をカウントダウンされるほどの人物というのもなかなか…)
そして、10月4日。
当日の関連ホットワードをほぼ独占し、その様子はNHKのニュースで取り上げられ、生誕祭はヒートアップ。
お祝いムードのファンで賑わう生誕ツイートの流れのなかに、なぜか続々と企業公式アカウントが参戦していきます。
もちろん、両社間には何の関係性もありません。(この場合跡部様側は集英社、もしくはテレビ東京として考えています)
では何故、複数の企業公式アカウントは彼の生誕を祝ったのでしょうか。
何故、跡部様生誕は企業を動かしたのか
フォロワー数の推移をグラフにしたものを見てみましょう。
数値は誕生日当日の4日と、6日から7日にかけて、目に見えて大きく伸びてます。
6日付近の伸びは、naverまとめ等に「跡部景吾の誕生日を祝った企業アカウントまとめ」のようなエントリーが、いくつか追加されたことに関連したものであることが推測できます。
実在しない「キャラクター」にまつわるイベントは、もちろん跡部様(敬称までが本名、といわれる彼ですので、以降も「跡部様」で統一表記といたします)に限ったものではありません。
似たようなイベントとしては本年8月の「バルス祭り」が記憶に新しいですが、国民的アニメであるラピュタと比較して、今回の「跡部景吾生誕」は、非常にターゲット層がニッチです。
あくまでもコアなファンである個人間で行われる筈の、どちらかといえばアングラ感の強い企画。
そこに企業の公式アカウントが便乗するという意外性、面白みは、所謂「アニメオタク」と呼ばれるコアユーザー以外の一般層にも、「面白おかしい情報」「フォロワーにウケそうな情報」という付加価値を産みます。
「拡散することでもたらされる反応への期待」はリツイート、リプライへの動機に結びつき、「今後も面白いツイートをするのではないか」という期待から、フォローへの敷居はぐっと下がるのです。
そこに、企業そのものに対する興味や関心といった小難しいものは介在しません。
「ニーズを持たない潜在顧客を育てるためのマーケティングツール」と言われるTwitterですが、最も困難なのはその「ニーズを持たない潜在顧客をどう獲得するか」です。
大々的なキャンペーンを打ったり、各媒体にフォローを促す一文を添えたりと、各企業知恵を絞った様々なとりくみが見られるなかで、
上記に参照したオフィシャルアカウントはたった一言のツイートだけで、一気に200人近い新規フォロワーを獲得することができたのです。
莫大な拡散力を約束されたハッシュタグを効果的に使い、ネットのいち界隈で行われるお祭りに便乗したウィットに富んだ投稿は、
ユーザーに近い位置にある企業であること、ユーザーにとって有意義なフォロー対象アカウントであることを、膨大なユーザーにアピールするのにまさにお誂え向きだったといえます。
本件は、自社で大規模なキャンペーンを打たずとも、世間のお祭りや話題のハッシュタグに便乗することで、コストゼロでのフォロワー獲得に成功した例といえるのではないでしょうか。
広告スパムとして倦厭されず、ノーリスクで、かつユーザーにブランドを強く印象付けた「跡部様生誕祭」への参加は、まさしく企業アカウント運用の「美技」です。
ソーシャルネットワークの持つ拡散力を上手に利用した、所謂従来のウェブサイトでは実現できなかったアプローチのひとつの形なのだと思います。
末筆ながら、
跡部様、ご生誕誠におめでとうございます!