金曜日のソーシャルメディアインサイトをお送りします。アクトゼロの黒沼(@torukuronuma)です。
僕たちは、日常的に様々なWebサービス上にログイン用のアカウントを開いています。そして、ブログサービスや、メールサービス、ソーシャルメディアアカウントなど、世界中のネットサーバ上にあなた自身の様々な生きた記録がのこされています。いまや、すべてのネットユーザーにとって無関係ではない、これらネット上の情報資産の死後の取り扱いにおける現状と、今年3月にサービスインする予定の「LIVESON」を題材にその未来を考えてみます。
死後のアカウントは誰のもの?
「古田雄介の死とインターネット」最新記事一覧 – ITmedia Keywords
2012年に古田雄介氏がBusiness誠上で発表したシリーズ「死とインターネット」に国内における死後のネット資産の取り扱いについてほぼ網羅されているので、こちらの連載からポイントを引用しつつご紹介します。
◆死後のWebサービスアカウントの所有権について
落合弁護士は「まずはサービスを利用するためのアカウントと、故人が所有しているコンテンツそのものは切り分けて考えるべきでしょう」と語る。アカウントやIDは、サービスの運営会社が利用規約にのっとって貸し与えたものなので、ユーザー側がどうこうすることはできない。選択権は運営側にあるため、死後の措置も一般常識の範囲内(=法律の判断を仰がないレベルの常識内)でバラけるのは自然なことという解釈だ。「アカウントの一身専属性を優先するのも、遺族への承継を認めるのも利用規約の取り決めであって、法律が直接絡むわけではありません。承継する場合も、法律としての相続ではなくて、利用規約の制度上の措置というわけです」。
Business Media 誠:古田雄介の死とインターネット:ユーザーが亡くなったページの権利と責任は誰のもの?――法の観点から見た死とインターネット (2/3)
故人のアカウントはあくまでプラットフォームから認められた借り物の権利で、故人以外に所有権がないようですが、レンタルサーバーの契約については遺族に限り契約を引き継げるとするプラットフォームもあるようです。
◆レンタルサーバー契約の対応について
さくらインターネットやOCN、Bizホスティング メール&ウェブなど、以前から遺族による承継の選択肢を提示しているサービスに加え、2009年に利用規約を改定して対応したDTIの接続サービスと同社のクラウドサービス「ServersMan@VPS」、2011年に契約者の承継・譲渡手続きを開始したSo-netなど、ここ数年で新たに対応する動きが複数みられる。(中略)
一方で、遺族であっても契約の承継や譲渡を認めないサービスも多い。BIGLOBEを提供するNECビッグローブは「会員が受けていたサービスの権利を第三者が譲渡等受け取ることは現状はできません」と明言する。
Business Media 誠:古田雄介の死とインターネット:有料サービスは死亡した会員をどうやって知り、どう処理する? (2/3)
国内においては、未だサービスプロバイダーによって対応のズレが有り、一定の共通見解が業界内でもとれているわけでは無さそうです。しかし、海外においては、少し違った様相を見せます。
◆海外では、故人のアカウント情報を指定の人物に知らせるサービスも
2009年にスタートした「Legacy Locker」は、現存するこの手のサービスではもっとも支持されているもののひとつです。
ユーザーは、自由に自分のアカウント情報をこのネット上の貸金庫に保管することができます。ユーザーの志望が確認された後、アカウント情報が「遺言」のように指定した人物へ知らされます。アカウント情報のみならず、「遺言メール」を特定の宛先に届けることも可能で、一部機能は無料で提供されています。
同様のものとして、スウェーデンに「MyWebwill」というサービスが有りましたが、こちらは残念ながら2011年にサービス停止してしまいました。運営者がベンチャー企業だったため、ちゃんと数十年単位でサービスが継続されるかユーザーが疑問視した結果、思うように登録者が伸びなかったのではないかと分析されています。
一方、ソーシャルメディア上での死後のアカウントの取り扱いはどうなっているでしょうか?
FacebookとTwitter、死後のアカウント対応
◆Facebookは親族による削除もしくは、追悼アカウントとして対応可能
Facebookアカウントは、ユーザーの死亡が確認された場合、自動的に追悼アカウントに切り替えられます。追悼アカウントへの変更は、Facebook内のこちらのページからの申請によって受け付けられています。
親族であることの確認書類を提出すれば、アカウントの削除を申請することも可能です。
弊社は、亡くなった方のアカウントの削除など、身元を確認できた直系の親族の方からの特定の特別なリクエストに対処いたします。これにより、Facebookからタイムラインとすべての関連コンテンツが完全に削除されるため、誰も見ることができなくなります。
特別なリクエストについては、依頼者の方に、直系の親族または遺言執行人であるという証明をご提示いただく必要があります。亡くなった方との関係を確認できない場合、リクエストは処理されません。
サイトで、亡くなったユーザーのアカウントの特別なリクエストを送信するには、どうすればよいですか。 | Facebookヘルプセンター
◆Twitterアカウントは親族による削除が可能
TwitterアカウントもFacebookと同様に親族による削除が可能となっていますが、こちらでは、故人の意志が確認できる文章が公証文として存在していることが求められます。米国Twitterと直接掛け合う必要がありそうですが、対応してくれるようです。→Twitterヘルプセンター | 亡くなられたユーザーに関するご連絡
ここまでは故人の遺志がどのように扱われるかという話でしたが、昨日究極とも言えるサービスが現れました。
死後もユーザーに成り代わってツイートし続けるサービス「LIVESON」
2013/02/28 ITMediaにて[LIVESON]のサービスリリースが掲載されました。
TwitterでLIVESON用アカウントを作成すると、人工知能がユーザーのメインのTwitterアカウントを分析して好みや書き方を学習し、ユーザー本人であるかのようにLIVESONのアカウントにツイートを投稿します。ユーザーがフィードバックすることでLIVESONのツイートを改善していくことが可能です。
さらに「執行者」を指定しておいて、ユーザーが亡くなったときに執行者がアカウントを「生かし」続けておくかどうかを決定します。
LIVESONは英国の広告代理店Lean Mean Fighting Machineがロンドン大学クイーンメアリー大学の研究者と取り組んでいる実験的な試み。人工知能に本当に自分と同じようなツイートができるのか気になります。
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1302/28/news044.html
これは、「故人のアカウントを死後どう扱うか」という考え方をはるかに逸脱した、「死後も故人の一部をネット上にどう残していくか」を世に問うサービスの誕生です。この2つには圧倒的なちがいがあります。LIVESONのサービスは、故人の「生」を死後へ拡張するサービスなのです。
もし個人(故人)のツイート志向をLIVESONのエンジンがツイート上で再現できたとしたら、死後LIVESON内に残る「その人っぽさ」を僕たちはどうとらえていけばいいのでしょうか?それは単なる「文体と興味の傾向を集めたデータの集合」なのかも知れません。しかし同時に、「生前のその人のかけら」とも言える気がします。故人を知る人物がそのツイートに触れ、その人らしい振る舞いを見た時。その知人が感じるのは、データではなく「その故人の匂い」なのです。
LIVESON上に再現された「故人のかけら」は、いずれ誰かによって「再び」葬られるのでしょうか?Twitterのサービスが終了する時、彼らはどこに行くのでしょう?
黒沼(@torukuronuma)
↓ここから蛇足です。
LIVESONのサービス開始を知った時、僕はアニメ「攻殻機動隊S.A.C.」のストーリー「映画監督の夢」を思い出していました。SF作品ですが、こんなストーリーです。※ネタバレ注意
売れない映画監督が、現実世界に見切りをつけ、ネットに接続された自分の脳のなかで理想の作品を完成させました。その脳の中の作品をネット経由で見に来たユーザーは、次々と作品に魅了されて現実に戻ってこなくなり、ついには命を落とすものも現れます。
事件を捜査する主人公(草薙)も、監督の脳内で作品に触れ魅了されそうになりますが、なんとか平静を取り戻し、当の映画監督(神無月)とネット上の仮想世界で対話します。
神無月「どうだった?」
草薙「確かにいい映画とも言えないくもないわね。でもどんな娯楽も基本的には一過性の物だし、またそうあるべきだわ。始まりも終わりもなく只観客を魅了したまま手放そうとしない映画なんて、それがどんなに素晴らしく思えたとしても害にしかならない。」
神無月「ほお、手厳しいのう。我々観客には戻るべき現実があるとでも言いたいのかね?」
草薙「そうよ。」
神無月「ここの観客の中には、現実に戻った途端に不幸が待ち受けてる者もいる。そういう連中の夢を取り上げあんたは責任を負えるのかね?」
草薙「負えないわ。でも夢は現実の中で闘ってこそ意味がある。他人の夢に自分を投影しているだけでは死んだも同然だ。」神無月「リアリストだな。」
草薙「現実逃避をロマンチストと呼ぶならね。」
LIVESONのやろうとしている実験はとても興味深いものですし、始まったばかりなので、完璧に故人のツイートが再現されるにはもっと時間がかかるはずです。
しかし、このプロジェクトが上手く行ったとして「死後再現され続ける故人の匂い」は、このストーリーでいう「理想の映画」のようなもので、遺族が故人の死という「現実」に区切りをつけることを困難にしてしまうのではないかと、僕は少し心配します。遺族にとって辛い「死=現実」を積極的に受け止めることができる方向にテクノロジーが進化して欲しいと思うのですが、それこそ僕たちの想像力次第なのですよね。
photo by Lollomelo