多くの方々から、ソーシャルメディアを使ったお店での取り組みを行えたらなぁ…という声を、以前からよく耳にしていました。ただ、実現するための技術的なハードルが高かったり、効果が見えにくいために実施に踏み切れなかったり、さまざまな事情から、なかなか国内での目立った事例はありませんでした。
しかし、ここにきてソーシャルメディアと連携したリアル店舗でのキャンペーンを、いくつか目にするようになりました。今回はそういった事例をご紹介しつつ、その課題を考えてみたいと思います。
無印良品「KNIT Like COLLECTION」
まずご紹介するのは、無印良品「KNIT Like COLLECTION」という取り組みです。オンライン上での集めたFacebookの「いいね!」数を店舗に置いたディスプレーに表示するというものです。期間限定かつ1店舗での実施ということで、あくまでも実験的な取り組みだと言えますが、無印良品というメジャーなブランドの取り組みとして注目しています。
オンライン上のユーザーが取るべきアクションは非常にシンプルで、特設サイト上で紹介しているコーディネートの中からお気に入りのものを「いいね!」するだけというものです。
そして、“オフライン”である店舗には同様のコーディネートを展示しており、そこにオンライン上での「いいね!」を表示するというものです。この取り組みのポイントは、オンライン上でのクチコミの状況を、実際に店頭で可視化しているという点につきます。
この施策は「オンライン→オフライン」という流れがほぼ全てとなっています。しかし、かろうじて「オフライン→オンライン」の流れとして、Ustreamが活用されています。店舗で展示されているスペースをUstream上で配信しており、オンライン・オフラインの結びつきを演出しています。
こうした背景のひとつとして、近年、オンライン上のクチコミを購入の参考にするという消費者の行動が強くなってきていることが挙げられます。※1
オンライン上のデータを分かりやすく提示することで、購入の後押しとして活用する狙いが考えられます。また、オンライン上の「いいね」数と販売数の関連性や購入者の属性といったより詳細なデータと取ることも可能だと言えます。まだまだ、実験段階ではあると言えますが、実際のクチコミ効果が販売に与える影響を図るにはとても重要な取り組みだと思われます。
※1「購買行動におけるクチコミの影響」に関する調査(http://research.goo.ne.jp/database/data/001430/)
「“お店でタッチ”Facebookでスタンプラリーキャンペーン」
次にご紹介するのは、軽井沢・プリンスショッピングプラザで行われているキャンペーンになります。
このキャンペーンは少々込み入っており…参加者は自身のFacebookアカウントと紐付いたICチップが入っているリストバンドを渡されます。そのリストバンドをショッピングプラザ内のお店に設置されているデバイスにタッチさせると、参加者のスマートフォン上に表示されたスタンプカードにスタンプが貯まっていくというものです。
こちらも、キャンペーンの規模を考慮すると実益を求めたものではなく、無印良品のケースと同じく実験的な意味合いが強いと思われます。
ただ、Facebookというリアルな属性データとショッピングプラザ内での行動を紐付けて分析できるという点では、かなり精度の高い顧客マーケティングになるのではないでしょうか。
参加者の年齢や居住地、職業学歴など細かなユーザー属性を集めることは当然のこと、店舗がターゲットとしている属性の顧客がきちんと来店しているかどうかといった情報も収集できます。さらには、ショッピングセンター内での行動パターンの分析など、多くのデータを得ることができると思います。
また、このキャンペーンではあまりソーシャルメディア上でのアクティビティを積極的に絡めていませんが、Facebookのアカウントと紐付けることで、タッチとチェックインを結びつけるといったような、より細かくオンライン上でのアクティビティを生み出すことが可能ではないかと考えられます。
課題は技術的なハードルをどう越えるか
今回は若干異なる取り組みを2つ、事例としてご紹介しました。
無印良品のケースでは参加自体は非常に簡単ではあるのですが、直接的な効果を測定するのは難しく、あくまでも販売促進のための店頭施策に近い印象を受けます。ただ、その内容がオンライン上でのクチコミデータであるという点が、顧客にどう影響を与えるのかについて非常に興味深いです。
一方、軽井沢ショッピングセンターのケースは、参加することのハードルが高い印象を受けてしまいます。まず、参加するために貸与されるリストバンドと自分のFacebookアカウントと連携させる手間が発生します。そのため、その手間を掛けても惜しくないと思わせるインセンティブを準備する必要があると言えます。
そして、リストバンドという物理的なデバイスを参加者に貸与しなければならず、当然ながらそれらを管理する運用面での手間も発生します。しかしながら、参加者の属性データと行動データというリアルなデータを集めることができる点は、特筆すべき点だと言えます。
このように考えると、ソーシャルメディアとの“濃い”連携を求めようとすると、オンライン上のユーザーアカウントと紐付けるアクションが必要があり、何かしらのデバイスとアカウントを紐付ける作業が必要になってきます。こうした技術的ハードルが、オンライン(ソーシャルメディア)とオフラインの連携を進めるうえで、ひとつの障壁として存在しているように思います。
まずは、こうした障壁を取り除くことが必要だと考えられます。例えば、ユーザーがソーシャルメディアを利用するデバイスの一つとして、スマートフォンが挙げられます。そういったスマートフォンの機能(NFC等)をいかに活用するか。もしくは、デバイスに依存しない形でも、事前に登録しておけるようなオンラインでの準備もあるでしょう。
このように、オフラインの現場でソーシャルメディアを活用するメリット(ユーザーの細かな情報やソーシャルグラフ)を享受するためには、まだまだ克服すべき課題が多いように思います。しかし、技術の進歩は日進月歩です。このブログでも引き続き、新しい技術を積極的にご紹介しながら、こういった課題を克服する方法を模索したいと思っています。