2013年に入っても、ユーザーにコミュニケーションを提供するサービスの話題は事欠きません。SNSと書かずに、あえてコミュニケーションサービスと述べるのは、FacebookやTwitterといったものだけに留まらず、LINEという新しいコミュニケーションのありかたも浸透しているからです。そのLINEは、ユーザー数が1億人を突破して、その存在感を高めています。もちろん、既存のサービスもいろいろと新たな取り組みをしているのですが、今回はTwitterの新しい動画共有サービスについて取り上げてみたいと思います。
6秒間の動画共有
今回ご紹介しようと思っているサービスは「Vine」というもので、ちょうど先週の後半にリリースされました。それなりに話題になっていたので、興味をお持ちの方も多いのではないかと思います。このサービスは、Twitter社が提供するスマートフォンで撮影した動画を共有するサービスで、専用のスマートフォンアプリを使用して動画を撮影、それを手軽に投稿・共有することができるものです。当然、Twitter上にも共有することができます。
巷では、動画版Instagramとの声も上がっている、今注目のサービスのひとつです。このサービスの特徴は、単に動画がアップロードして共有できるというだけではなく、投稿される動画の「軽さ」であると思っています。
Vine上に投稿できる動画の尺は最長で6秒となっており、ダラダラと撮影されたものや意味のない“前ふり”にうんざりするようなものにはなりにくく、簡潔に表現する必要があります。6秒と聞いてちょっと短いんじゃないの?と思われる方もいらっしゃると思いますが、実際に6秒の動画を見てみるとそれなりに見ごたえのある長さであると感じます。もちろん、SNS的なトレンドにも乗っかっていて、「いいね」ボタン的なものや「コメント欄」も装備されています。
いろいろとアプリを使ってみてまず思ったのは、6秒という制限の中だからこそ面白さが生まれているのかもしれない、ということ。短いほうが面白い!なんて、短絡的なことは言いませんが、6秒という制限の中でいかにして面白いものを作り出すことができるのかという、創意工夫が凝縮されていると感じます。
ユーザーに等しく与えられた制限の中で、それぞれの「表現」が行われている点は、実はTwitterサービスの形そのものと言えるのではないかと思います。決められた文字数の中で表現し、相手に伝えるという根本的な設計思想は「Vine」の中にも生きていることは間違いないでしょう。
環境の変化がもたらすコミュニケーションの多様化
しかし、本当のところTwitterで動画を使いたいと思うユーザーは多いのでしょうか?
みなさんが自身のタイムラインを見てみた時に、目にしたツイートの中に写真が投稿されているものはどれくらいあるでしょうか。
正直なところ、写真でさえもそれほどまでに活発にやり取りされているとは言えないボリュームのような気がしています。私自身のタイムラインを見た時に写真がついている投稿は、個人ユーザーで4分の1から3分の1程度、コマーシャル要素の強い企業アカウントでも半分程度といったところです。
それではなぜ「Vine」をリリースしたのかという点を考えてみると、今までにない新しいコミュニケーションを「動画」という切り口で提案したかったのではないか、そういう風に感じてしまいます。それは、同時に他のサービスの拡大をけん制する役割を担っているようにも思います。
Facebookでは写真が積極的に投稿されており、Youtubeも未だに根強い人気を誇っています。こうしたサービスとTwitterを比べてみることで、意図することが見えてくるように思います。
つまり、Twitter本来のテキストを中心としたサービスが迎えつつある限界を、「Vine」によって押し上げたいというものです。スマートフォンを多くの人が持つようになり、個人で作り出すことができる写真や動画のクオリティが一気に上がりました。それと同時に、モバイルインターネットのスピードアップもあり大容量のデータをやり取りすることも苦ではなくなりました。
感動した「今」を切り取ってその場で共有することが、SNS本来の姿だとすると、そのSNSにおける表現の手法が環境の変化によって多様化し、リッチなものになってきたことは間違いありません。そうしたコミュニケーションの“リッチ化”に対応するための、Twitterとしてのひとつのアクションなのではないでしょうか。
実際、Twitterのコアであるテキストメッセージは通信環境の劣悪な国でも使われている現状もあるとは思いますが、通信インフラの整った環境であれば、より多くの刺激を求めることは容易に想像ができます。このような新たなコミュニケーションサービスがユーザーにどのように使われていくのか、非常に興味深いところです。そう思うと同時に、Twitter本来のテキストでのコミュニケーションは、まだまだ衰えることはないでしょう。ユーザーにとっては、サービスを選択し使い分ける環境が整ったことは、とても意味のあることだと思います。
新しいコミュニケーションといえば、昔、カメラ付き携帯が発売されてメールで送れるようになったとき、とってもワクワクしたことを思い出してしまいました。ある意味リッチなコミュニケーションの形でした。