思い出すべき”情報発信の初心”3箇条 ~成功を続ける商店街、埼玉・秩父 みやのかわ商店街から学ぶ

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埼玉県・秩父市。秩父鉄道の秩父駅前の大通りを中心に100店舗を超える商店で形成される「みやのかわ商店街」。”シャッター街”などと称された、衰退を続ける商店街が多い昨今、独自の施策により、非常に「元気」な商店街として全国から成功モデルとして注目されている。そして、そのいきいきとした商店街の様子はFacebookやTwitterを通して発信されている。

元気な商店街がソーシャルメディアで情報発信する理由や目的とは何なのだろうか。そう考え、実際に現地を訪ねてインタビュー取材してきたのだが、取材を通し、企業のマーケティング担当者が忙しい日常の中で、忘れかけていそうな”初心”の部分に気づくことができたように感じた。今日はそんな取材レポートをお届けしたい。

みやのかわ商店街の「ナイトバザール」とは?

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2016年6月18日(土)、梅雨の時期には珍しい青空が広がり、汗ばむほどの暑さを感じる秩父に私は降り立った。

今日はみやのかわ商店街名物の「ナイトバザール」が開催されるのだ。真冬を除く偶数月の第3土曜に開催(年5回程度)される。およそ30年前、量販店の郊外への出店に危機感を覚えた商店街のメンバーが、地元の秩父夜祭にヒントを得て、1987年(昭和62年)に第1回を開催して以来続けて開催しており、今回でなんと270回目を迎える。19時頃から国道を歩行者天国(!)にし、各商店が出店したり、商店街などが主催するオリジナルのイベントで構成され、秩父地区の活性化に重要な役割を果たしている。秩父地方では年間400以上の大小の祭が行われていると言われているほど祭好きな土地である。ナイトバザールの成功もそのような風土が背景にあることは確かだろう。

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今回のメインイベントは「宮側屋台の引き回し」だ。来月7月19・20日に行われる秩父川瀬祭は350年以上の歴史があり、冬の秩父夜祭に対する夏祭りとして有名だ。その屋台(山車)の車輪が100年ぶりに新調され、ちょうど一ヶ月前にあたるこのナイトバザールで試し曳きをするのだという。試し曳きということで正直私個人的には期待していない部分があったのだが、実際町内を訪問すると、その準備の本格さに非常に驚いた。まるで祭当日さながらの様子である。

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商店街のほぼ中心部に位置するのが「ほっとすぽっと秩父館」だ。明治時代初期に建築された商人宿を改装し、地域の交流や観光拠点として開設された施設だ。こちらを訪問し、インタビュー対象者を待つ約束になっている。

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内部は風情ある木造作りで、お茶だけでなく、地元で醸造された地酒やワイン、秩父産ウイスキー「イチローズモルト」を飲みながら休憩でき、非常に居心地の良い空間だった。

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ちなみに近年、秩父は人気アニメーションの舞台となっており、作中のモデルとなった地を巡る「聖地巡礼」で訪れる国内外のアニメファンも多い。この施設はオフ会の会場にもよくなるらしい。作品に対し、地元が大きく協力していることは私も知っていたが、この後のインタビューを通してその姿勢がよく分かった気がした。

Webで情報発信を行う目的は「特にない」。まずはやってみる。

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みやのかわ商店街振興組合の小泉貴之理事長(写真左)と元理事長の島田憲一氏(写真右)のお二人に話を伺った。

ネット上での商店街に関する情報発信はいつから開始したのでしょうか?

島田元理事長(以下「島」):25年位前からホームページを作成して情報を載せることを始めたと思います。
小泉理事長(以下「小」):島田さんから理事長を4年前に引き継いだのですが、その時に若い世代の人にもWebのチームとして参加してもらい、そこからFacebook などのソーシャルメディアにも力を入れてきました。若い人の方がそういうものは得意ですからね。

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みやのかわ商店街Facebookページ:https://www.facebook.com/miyanokawashotengai/

島:ホームページを更新し続けるのはけっこう億劫で、意外と続き辛いもの。実際、私達のホームページもかつてそのような状況もありました。ですが、短文の投稿で済むFacebook位であれば簡単に情報を載せられる。SNSを普通に使っている若手が増えたからこそ、頻繁に投稿することができ、今もうまく続いていると思います。

小:今は1人ではなく、4人体制のチームでFacebookの運用を担当しています。商店街のお店の紹介やイベント等を、商店街の メンバーの30代の若手が中心に取材して記事を作り、投稿しています。4人が週ごとに交代しながら担当しています。

みやのかわ商店街がWebで情報発信を行う目的とは何でしょうか?

島:私達の商店街は、ナイトバザール含めていろいろな新しい施策(※記事最下部に注)を昔から行ってきましたが、その成果や目的などを深く悩まずに、成功・失敗を恐れずに何でもチャレンジする文化があります。まずはやってみないと成功も失敗も分かりませんから。最初から成功するほど商売も楽ではないものですし。(笑)

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夕方頃から歩行者天国になり、国道沿いにいろいろなお店が出現し始める

小:誰かが何かやりたいといえば、理事会を開いて皆の意見を聞き、全員がOKでないと行ってはNGという文化はありません。どうぞ、とりあえずやってみなさい、と。
島:情報発信も同じで、目的や反響などを分析する時間があったら、まずは発信してみればいいじゃないかと。目的とかはそれほど考えず、時代の流れもあって商店街でホームページを作ろう、やがてSNSが出てきてFacebookもやってみようかといった感覚です。ここ数日の間、商店街のアカウントや私個人のアカウントに、全国からナイトバザールに関するメッセージや問い合わせが集まっており結果的に反響がある状況です。先日、県内のある地方を訪れたのですが、そこの市長さんがみやのかわ商店街の伝統を守りつつ、新しい取り組みを行っていることについて話していました。個人的にFacebookで交流のある市長なので、今日の情報もきっと伝わっていることでしょう。

みやのかわ商店街のチャレンジ精神

みやのかわ商店街にはチャレンジャーが多いのだと思われますか?

島:普通は祭本番以外に屋台は絶対出さないはず。人出も手間もかかるし。でもうちはこうして出してしまう訳です。

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小:こうした、”やってしまう”文化を背景に、若い世代も祭が好きということもあって参加し、中心になって屋台を運営しています。若い頃からそれぞれミッションが与えられているからこそ、終わった後の達成感が面白さに繋がるのだと思います。若いころからみんなチャレンジャーなんじゃないですかね。
島:年配層も昔からチャレンジャーが多いです。だから、若い子にもチャレンジさせ、それができることが普通という環境です。私達世代が一番チャレンジャーなのかもしれません。若い人よりも過激かもしれない。(笑)
小:怖さ知らずですから。(笑)  若い人の怖さ知らずではなく、全てを知り尽くした上での怖い物なさです。
島:やる気のある人が1人か2人さえ居れば物事は行うことができるのです。否定的な人間は相手にしていても何もチャレンジできないので放っておいて、あとは付き合いでも行動してくれる人間を集めればたいていの物事は動くものです。人間は基本的には否定的な方に流されがち。だって楽だから

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イベントの一つとして、新調した車輪の重さ当てクイズも。ピタリ賞には商品が。

島:ナイトバザール中のイベントですが、基本的に同じことを繰り返していません。これまでのナイトバザールで 800以上のイベントを考えて実行してきましたが、どんなに面白いことでも原則的には同じことは二度と行いません。ウケたイベントを繰り返すと心に緩みが出てしまい、同じことを繰り返せば良いことになってしまい、すぐにマンネリ化してしまう。同じことを繰り返していれば一番楽。でも、同じ催しにしないという信念があったからこそ、今まで続けて来れたと思っています。
小:逆に同じ催しを繰り返せないというプレッシャーはいつも感じています。でも、それが逆に強みにしようとも考えていますが。

過去には、ナイトバザールでサンバカーニバル・仮装コンテスト・音楽の演奏会等など
様々なイベントが800以上行われてきたが、手作り感溢れる内容も多い。
秩父鉄道の開通周年を記念し、電車ごっこ参加者数でギネスを作るという試みも。
(上記写真は、みやのかわ商店街Facebookページより)

「面白いこと」を続けることは「商店街の利益」に繋がるのでしょうか?

島:必ず繋がります。それが証拠にうちの商店街にはほとんど空き店舗がありませんし、若手の後継者も育っています。こんな商店街は全国そう多くありません。

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島:人を惹きつけるためにはまず、自分たちが面白いと思って楽しめることを行わなければ、絶対に他人に面白いとは思わせられません。SNSでの情報発信も同じで、自分の街に誇れるもの・自慢できるものが無ければ見ている人を惹きつけることはできないと思います。今夜のナイトバザールも、祭に出す屋台や太鼓の演奏など、私達は自慢できて情報発信をしたくなるものを多く持っていますし、それは自分たちが面白いと感じて継続したり、新たに作り出してきたもの。自分が面白くないものを発信したってつまらない。自分たちが面白いと思っているから発信しています。

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島:私達は思いついたらやっちゃう。なかなか自分の資本で行うには難しくても、商店街単位になればやれることの選択肢は広がります。そして失敗があるから成功がある。簡単に成功するようなことは実は面白いものではなく、危険だから面白いことがよくあるじゃないですか。スリルのあるものは面白い。勿論、いかに事故なくスリルを味合うかの工夫は必要ですが、私たちはこれからも辞めることはありません。

取材を終えて感じた、情報発信に重要な3箇条

実際にみやのかわ商店街を運営している方々のお話を聞き、Facebookなどによる情報発信の裏にある、みやのかわイズムを強く感じることができた。

普段、デジタルマーケティングに携わる私達含めた立場の人間は、ついKPI・KGIなど目標を立て、それを達成するための施策は何か、といった考え方を最重要視しがちだ。勿論、それは大切なことではあるが、ソーシャルメディアに関わらず、そもそも情報発信を行う際に心がけるべき姿勢が、みやのかわ商店街の取材を通して再確認できたように思える。以下にその3箇条をまとめてみた。

みやのかわ商店街に学ぶ、”情報発信の初心”3箇条
1.結果を求めたり、失敗を恐れるよりもまずはチャレンジしてみる。やらせてみる。
2.成果が出たものごとにすがらない。常に新しいチャレンジをし続ける。
3.自分たちが面白いと思うものでなければ、他人は面白がらない。

取材後、ナイトバザールをそぞろ歩きし、迫力ある動きの屋台を鑑賞した。参加している人、運営している一人ひとりがとても良い笑顔だった。勿論、私もいろいろな人と出会い、話ができ、とても楽しく充実したひと時を過ごすことができた。自分たちが楽しむことを忘れてはならないと改めて思った。

ナイトバザールでお忙しい最中、取材にご協力頂いた、みやのかわ商店街振興組合の小泉理事長、島田元理事長はじめ、みやのかわ商店街の皆様に厚く御礼を申し上げます。

 

※注:ナイトバザール以外のみやのかわ商店街の取り組みについて
秩父エリアは埼玉県内トップクラスの高齢化率の高い地域。買い物に出たくても出られない買い物弱者に対し、商店街が高齢者施設などに出張して商品を陳列・販売する「出張商店街楽楽屋(らくらくや)」を実施している。これを楽しみに待つ高齢者の購買意欲は高く、自分で商品を選んで購入する、買い物の楽しさを感じられると好評を博している。

また、元気な高齢者が困った人を助ける有償ボランティア制度「ボランティアバンクおたすけ隊」を結成。ボランティアを依頼する人は数百円をみやのかわ商店街に支払い、ボランティアを行った人はみやのかわ商店街で使える共通商品券を受け取ることができる。頼む側も有料であるからこそ気兼ねなく依頼でき、行う側もやりがいを感じることができ、商店街も潤うという、三方にメリットのある制度だ。