SOCIAL MEDIA WEEK・動画共有系サービスセッションまとめ(Ust・YT・ニコ動)

2009年2月にニューヨークで開始した、ソーシャルメディアの世界最大規模のイベント「SOCIAL MEDIA WEEK」がまさに現在開催中です。2月13日~17日の1週間、世界12都市で同時に開催されるのですが、7回目となる今回初めて、日本(東京)が会場に含まれました。

2日目となった昨日、14日、現在日本を代表する動画共有系webサービス「USTREAM」「YouTube」「ニコニコ動画」にまつわるセッションが、護国寺の講談社を会場にして行われました。アーカイブ動画もあるようですが、すべて視聴するほど時間の無い方のために、その様子をテキストでまとめてみました。(あくまで自分用のために割愛した部分や、漏れがあると思いますがご了承下さい。)3社とも自社サービスに対し、3様の考えで展開されており、非常に興味深い内容でした。

長文ですので、時間のある時にじっくりとお読みください。

「ソーシャルメディアで感動を共有 ~Ustreamの現状と戦略~」

◆Ustream Asia株式会社 代表取締役社長 中川 具隆氏

・USTは、世界の人々が誰でも使えるワールドワイドなライブストリーミングサービス。配信の開始時間・何時間配信するか、低ビットレートなのか、高品位な映像なのか、配信者が柔軟に決められるのは他サービスにはない。
・コンテンツ販売などのプロモーションに使いたい際、UST配信には品質を落とし、実際に物販するものは高画質に収録する。また、USTのコンテンツ自体を販売したい場合には、DVD画質並のビットレートで配信も可能。
・サービス登録者は日本で86.3万人、世界では1363万人。

・昨年、3月に日本でピーク視聴者数。東日本大震災でTV8局、ラジオ5局がサイマル放送を実施。913万人が視聴。その後も、順調に増加中。

・ユーザー層は年齢層がやや高め。所得が比較的高い層が集まっているのが特徴。

・ソーシャルメディアとの連携は、Twitter・Facebookだったのに加え、昨年後半からMixi等、日本のサービスと も連携。およそ3ヶ月で、mixi・アメブロからの視聴者流入が増加している。

・最近の事例として、USTREAMサイトだけでなく、動画インフラとしてUSTREAMを企業サイトやFacebook・MSN等に埋め込みすることで、客を逃さず視聴する導線を作る事例が多い。例として、WOWOW(USTREAM・MSNch・アメーバ・yahoo等)サムソン・トヨタ・任天堂・ベネッセ等。
・韓国で「UstreamKOREA」を2月9日に法人登記。USTAsia49%・kt51%のジョイントベンチャーとして会社設立。
・今年行われる2回の国政選挙(大統領選・総選挙)で活用予定。特に今回から海外在住の有権者も投票ができるようになり、候補者の主張をUSTを通して伝えたり、ソーシャルメディアを通して対話することができるように目論む。また、韓国の音楽コンテンツを、国内市場よりもより広い海外市場に売り込むために活用を。
・USTをマーケティングに活用する時の魅力は「感動を共有できる」点。具体的に同じコンテンツをみんなで視聴・共有し、同じ意見を持った人達に電波させることができる。
・こどもの音楽再生基金(坂本龍一)の例。同時視聴者数が増えるに連れ、ツイート数も増加し、寄付のためバナーのクリック数も増加。一般のバナーのクリック率が1%に対し、14%ものクリック率を実現した。

・この時、寄付金の金額を決めずに、寄付する人間が金額を決められるように設計。好評を博した。このような、 投げ銭・おひねりの機能を今年3月に実装予定。

◆株式会社サンライズ 専務取締役 宮河恭夫氏
・TIGER&BUNNY 企業ロゴを背負ったヒーローが展開する架空SFものアニメーション。

http://www.tigerandbunny.net/

・地上波とUST同時に放送した。BS11の前回の再放送放送後の1時間半後に、最新話を地上波とUSTで放送。普段、テレビ放送だけだと同時に見ている人数がわからないが、ツイート数や同時視聴者数で、同時に見ている人数を視聴者に感じさせたかった。
・当初はUST視聴者数は3000人。翌週には7900人。12話目には50000人を超え、放送前にTwitterなどで番組待ちする人のつぶやきも。
・USTREAMに流すことで視聴者数が減ったかというと否で、社会的な認知につながり、テレビの視聴率増加に繋がった。アニメではこれまでに無かった最終話を映画館でライブビューイングするイベントも大人気に。映画館にもTwitterを実装して、全国のファンとの一体感が面白かった。USTREAMの視聴者数も減らずに93490UUを獲得。

・Q.韓国ならではのSNSとの連携は考えているか?
まだ考えていない。日本よりもFacebook・Twitterの普及率が高いのでまずそこからと考えている。
・Q.ネットでアニメのコンテンツを流す不安感は?
今は昔と違い、まずは見てもらい、何度も見た結果、納得しないと視聴者はコンテンツを買わない。作り手にとって厳しい状況だがテレビ・UST等使っていろんな視聴機会を作ることが重要となってきている。
Q.数ある動画配信サービスで、何故USTと組んだか?
USTREAMはユーザーの年齢層が高く、一定の収入があり、購買に繋がる層が多いのではないかと考えた。

「YouTubeがもたらす映像プラットフォーム革命」

◆グーグル株式会社 執行役員 YouTube パートナーシップ 日本代表 水野有平氏

<YouTubeは、それ自体が世界最大の動画共有サイトである>
・2005年米国でサービス開始。日本では2007年に開始。

・ユーザーは世界に8億人、1日あたり40億回再生されている。1時間あたり60時間分の映像がアップされている。
・アーティストの楽曲を、ファンが歌ったり、踊ったりした動画を公開するなど、インタラクティブな活動をしているユーザーも多く居る。こうした動きを楽しみ、反応を起こすアーティストも。
・3万を超えるコンテンツパートナー
・YouTubeはコンテンツを作らない。編成もしない。コンテンツへの出資もしない。動画を配信プラットフォームを提供することに限る。メディア企業や自らがメディアになろうとする個人に対するプラットフォームになる。
・YouTubeの動画ファイルの音声を自動で字幕化する機能、文章をそのまま外国語に翻訳して字幕化する機能で、大意は伝わる。動画をひとつアップすると世界の様々な8億人に伝わる可能性が。言葉の壁を超えるツールを提供している。
・映像で大切なのは画質。高画質・安定して送るのは実は非常に難しい。巨大な配信プラットフォーム実現している。
・3D映像にも対応。
・すべてのデバイスにYouTubeを。通勤中の電車内でスマートフォン、家のリビングでテレビを見ながらネットのツールでコミュニケーション。どこにでもYouTubeがあるように技術開発を進めている。すべての映像を作り、シェアし、編集し、映像を届けようとするすべての人のために。
・YouTubeにアップされた韓国の音楽コンテンツ、2008年では主にアジア圏で再生。2009年から2010年にかけて北米でも再生数が増加。根付いた。MBC(放送局)では、過去のアーカイブをYouTubeにアップ。テレビを見逃した人向けの動画もアップしている。世界を意識したコンテンツの提供の際に、YouTubeをプラットフォームとして活用する事例 。

<YouTubeは多くのSNSのための世界最大の動画共有プラットフォームである>

・YouTubeには、Facebookでシェアする機能や、自分にメールでURLを送る機能など、YouTubeで動画再生するだけで終わる訳でなく、YouTubeで見つけたものを共有するためのプラットフォームになっている。
・1年間に10万年分のYouTube動画がFacebook上で見られている。1年で3.5億本のYouTube動画がTwitterでシェアされている。
・テキスト/画像/動画、同じ長さの時間見せた場合、どれをシェアしたがるか?動画ではないか。多くの場面で動画がSNSの中で重要になってくる。SNSに対して動画という情報の供給源を担っていく。
・YouTubeでヒットするには、最初から高いコストを掛けず、3万円程度の低コストから始めて、徐々にコストをかけたものを作っていく。
・動画制作、成功のための7つの法則

1.冒頭の15秒:冒頭の掴みをキャッチに。最初がつまらなければ逃げてしまう
2.行動を促すフレーズ:コメントを残して。○○してね、というメッセージを。
3.定期的な公開、公開頻度:ファンクラブを運営する気持ちで。定期的にアクションを。
4.ビッグイベントに関連した動画:バレンタインデー・クリスマス・オリンピックなどに絡め、事前に公開。
5.相互プロモ&コラボ
6.視聴者を巻き込む:視聴者のリクエストを公募
7.世界を意識する:単純に関連タグを英語表記するだけでも拡散する可能性

・Q.ライブメディアとしての今後の展開、特にGoogle+とのソーシャルストリームとの展開は?
ライブのマーケットはこれから伸びるだろう。YouTubeではパートナーとなっている相手を中心に展開中。課金配信などできないのか等の声を受けている。実験的にアメリカのプロレス団体の番組を実験的に有料配信。パートナーからの声をもとに技術を向けていきたい。Google+の動画投稿機能は今後、YouTubeと統合していきたい。

ニコニコ動画に見るメディア変革時代

◆株式会社ニワンゴ 代表取締役社長 杉本誠司氏

・収益構造上、広告を占める割合はそんなに大きくない。YouTubeやUSTREAMとはビジネス観が違う。
・ニコニコ動画は、動画を観るという行為を通し、ユーザー間が横並びで話をする、人と人が出会う場所。
・動画を配信すること以上に、コメントが重要。動画の時間軸に対して、多数の人が見ている、パブリックビューイングを擬似的に再現している。掲示板のスレッドに近い。ユーザーは何度も動画を観る傾向が。VODでは1回限りでは。
・YouTube・Gyao・USTREAMは競合視していない。ユーザーにどういったものを提供できるかを追いかけている。Twitter・Facebookの方が近い存在。

・無料会員:2545万人(月間35万人ペースで増加) 有料会員:152万人(月間3万人ペースで増加) モバイル会員:721万人(月間12万人ペースで増加) サービスとしてのポテンシャルというよりも、これだけの人数がネットを通じてコミュニケーションしていることを表す数字。
・ユーザーの半分近くは20代。40代はマイノリティー。ニコニコで行われている行為は誰かとの日常会話。30代以下は顔を突き合わせる会話よりも、チャットやSNSなどテキストで済ませたい傾向が。経年で変化していくので、年齢層はやがて均衡化されるのでは。10年後などに、現在の30代以下の世代のコミュニケーションがSNS化されていくことを前提に考えることが重要では。
・ユーザーの3種類 最もアクティブなユーザー=コンテンツを投稿する「動画投稿者」 コメント投稿で盛り上げる「コメント投稿者」 見ているだけだがランキング上昇や視聴数に関与する、直接的に影響は大きくないが影響力はある「見てるだけ」

・3者間は意識しあっている。いずれのユーザーにも、参加した、影響した気持ちを演出してあげることがソーシャル感を作り上げるということになる。
・お互いの行為が、お互いの存在を評価しあっている。なぜ行うかというと、人から相手にされたい気持ちがそうさせる。自分の存在を認めたい。
・こうしたことが顕在化したのがソーシャルメディア。自己表現をすることでコンテンツは増えていき、消化されていく。デジタルコンテンツは無くならず、痕跡としてのコンテンツは残る。こうするために、どうユーザーに対しモチベーションを高めさせるか、動機付けを作るかを考えている。
・もともとニコニコ動画はアーカイブ動画を基に、アーカイブされたコメントと会話することで、人との繋がりをライトに再現している。生きてる人間の痕跡と喋っているサービス。ネットリテラシーの高いユーザーにとって、煩わしさがないコミュニケーションを望んだ結果。
・ユーザーが慣れに従い、対面せずリアリティーな会話を求めるようになった。ニコニコ生放送で、視聴者を時間軸で同期させリアルタイムでのコメントによる会話を実現した。
・TV等のようにコンテンツを編集する技術が無い中、会見の中継などを配信してコンテンツを提供。ユーザー側からも生中継のコンテンツを作り、ユーザー間で摂取することが実現している。ニコニコ動画の世界感を作り出している。
・ニコニコ動画はマスメディアの形を取れない。ユーザーは好きなジャンルにおいて情報発信・消化している。ジャンルがセグメントされており、深度は高い。動画一つ一つがメディア化している。ニコ動ユーザー全てを横串で先導するのはほぼ不可能。各セグメントに対したアプローチを行なっている。SNSというもの自体の特徴である。

・昨年3月の震災の事例。テレビのサイマル放送で1500万人のユーザーがニコ生で震災報道に触れた。今後、ライブストリーミングがテレビの代替となるかと思われたがそうではなかった。実際は動画上で、ユーザーは情報交換や共有をしていた。テレビは情報発信デバイスとして摂取できる状態に。ニコ生になった瞬間、映像を見ながら会話を行った。ニコ動視聴スタイルは、テレビを視聴するスタンスと異なる。

・ニコニコ動画で映画を配信。「みんなで映画を一緒に見よう」 映画館を超え、バーチャル上で会話を楽しみながら映画を観るというスタンス。共感する状態に対して価値を作る。これがソーシャルメディアで成立できる新しい市場。「Social On Demand」。100くらいしかコンテンツが無いが、皆で楽しむシチュエーションが大切。SODでは、見られないコンテンツを何万も集める意味はない。
・テレビ視聴もSocial On Demandで。ダブルスクリーン=テレビを見ながらニコ動を観るスタイル テレビの文脈を使ってニコ動でワイワイしよう。パブリックビューイング的な価値を。(例:「天空の城ラピュタ」等のジブリ映画作品)テレビという共通認識の高いコンテンツに対し、ソーシャルメディアができる参加感。
・メディアがインタラクティブになることで期待される役割は新たな価値を担う。従来のメディアが担う役割とは
似て非となるものとなる。
・SNSはセグメントされた世界観で行われる日常会話。一気通貫させることは難しい。
・従来のマスメディアは発信側からの一方通行。視聴者が同じレベルで発信者へ返す方法はない。常に受動者。
・ネットを使うということは双方向。それに則って機能する、サービスを作ることがソーシャルメディアを生む原点。提供者から与えられたコンテンツを受け、別のユーザーが自分が情報発信者としてコンテンツを発信。これらを増幅させていくことがソーシャル。著作権の扱いが難しくなってくるが、ソーシャルの構造に沿ったライセンスのあり方、モラル感を作っていくことが必要。まず規制するのではなく、権利物が扱われる正しい形を作っていく、誰に迷惑がかかるか等、良いこと・悪いことの価値観を作り上げるのがソーシャルたる社会観ではないか。事業者としてやっていかなければならない。

・コンテンツの需要者が供給者となっていく構造を築くこと・演出することが重要。コンテンツの需要と供給が活性化されれば総体的にコンテンツ産業は振興していく。
・情報拡散・情報のインタラクションのロイヤリティーがお金に変わっている部分が「プレミアム会員」の売上。
「映画の共有」など新しい提案で売り上げた部分も少しづつ増えている。こうした提案もできてきた表れ。
・人が集まっているところなのである程度成立している。今までの広告概念から逸脱した商品が必要だと考えている。
・アフィリエイト「ニコニコ市場」。商品を提案することがソーシャルという文脈で「遊び」になっている。ニコ動がきっかけとなって生み出しているECサイトの売り上げは数億円(2~3億?)になっている。
・通常のwebサービス:そこに集まった人に対した広告事業で儲ける ニコニコ動画:そこに居る人に対して課金する
・これまでのメディアはコンテンツを発信し、受信者側は受け取って終わり。ソーシャルでは受け取った情報をインタラクションすることによって、日常生活まで干渉範囲が広がっている。その場所の提供・役割といった、既存のメディアではやってこれなかった部分をサービス化しているのがソーシャルメディア。そこでのビジネスモデルも引きずられる形で広告やコンテンツという形で行なっているが、総見直しをする必要もあるのではないか。どこかのタイミングで、ソーシャルメディアの事業・サービスが、社会的な役割として何をすべきなのかを、これまでマスメディアを担ってきた人たちやSNSに触手が触れている人、ユーザーも含めて、改めてソーシャルメディアの位置づけを定義することが重要ではないか。文化論としてニコニコ動画はそう思っているので、ビジネスの話は得意ではない。