もう企業は社員の口を塞げない

金曜日のソーシャルメディアインサイトをお送りします。アクトゼロの黒沼です。

今週中程にガジェット通信で、マクドナルドの社内文書(とされる書類)が記事として公開されました。

マクドナルド「Twitter・LINE・2ちゃんねるで発言規制」と全国店舗通達にクルー困惑 「チキンタツタ美味しい!」は発言可能 – ガジェット通信

内容は割と一般的な社内向けのソーシャルメディアガイドラインと呼べる内容でしたが、件の「60秒サービス」へのアルバイトの不満がソーシャルメディア上を騒がせた直後だったため、現場で対応しているアルバイトの「口封じ」が行われたのではないかと、あらためて話題となってしまいました。

もう企業は社員の口を塞げない

60秒サービスが開始したのち、年明けには多くの現場の声がTwitter上で共有され、多くのブログメディアでその話題が拡散して行きました。

 ・店員の悲鳴
「実際、60秒とか無理だから、多分みんなバーガー券貰えるよwwwそんな俺はマックのクルー」
「マックで働いてるけど、もうみんな60秒無理だからあきらめてるー」
「うん、マック60秒は無理だな。あれは大きな店舗で人員がたくさんならできるけど、俺のとこみたいに小さい店舗じゃあピークは無理だ」
「厨房のドタバタ知らないだろ、しんどいぞ、まじで」
「つらいんですww60秒とか無理」
「60秒だとせいぜい2、3個しかつくれんだろおおおおおお わしには無理じゃあああああああ!」

マクドナルドの「60秒サービス」に現場から悲鳴 / 店員「もうみんな60秒無理だからあきらめてる」「60秒とか無理」 | ロケットニュース24 

少し前には、ユニクロ元社員による、ユニクロの労働環境に関する暴露が話題となりました。

 私は2010年3月に新卒で入社し、半年後、2店舗目で長時間のサービス残業によって鬱を発症して休職し、寝たきり状態になって、2年目の夏に辞めました。退職して1年余りですが、今でも通院し、薬を飲みながら、何とか社会復帰しつつあります。

 私がよく知る同期20人のなかでは、入社後2年のうちに14人も辞めていますが、大多数は、私と同様、鬱などの精神疾患によるもの。同期全体は把握できませんが、2年で半分ほどは辞めている印象です。

 入社前は、ユニクロが、人を病気になるまで違法に使い倒して、使えなくなったら捨てて、また「次」を採用する、というような“人材使い捨て会社”だとは、私自身、全く思ってもみなかったので、これから入社を考えている人のためにも、私がユニクロでどのような環境に置かれ、辞めざるを得なくなったのか、率直に実際に起こったことを、お伝えしようと思います。

「柳井正は人として終わってる」 鬱→休職→退職の新卒社員が語るユニクロの人材使い捨てぶり:MyNewsJapan 

また、転職に当たって、企業内部の雰囲気や待遇などの情報をシェアできるコミュニティサイト「キャリコネ」のような転職支援サービスも始まっています。自分が退職する際の企業情報・待遇などを提供することで、同じく他の会員から提供された各企業のクチコミを見ることができるというサービスで、その利用者は1200万人の会員を抱えています。

【キャリコネとは】
 キャリコネは社員の皆様が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。また、社員の皆様から直接お聞きした情報を元に記事を作成し、企業の広報は通さずに公表する、働く人のためのメディアです。

【キャリコネの社会的意義】
 企業の株式を保有する株主が経営陣を選出し、その経営陣の経営方針に従い社員が働くという構造が大前提である以上、社員が自らの意志を持って働く意義を見出すことは困難です。特に日本は明治時代より行政や財閥主導の組織が形成され、長期にわたり護送船団方式で企業や行政官庁が運営されてきたため、自由な市場競争の原理よりも横並びや調和が重視され、ビジネスパーソンのキャリア形成の阻害要因となってきました。
 また、系列化された企業群は広告主としてマスメディアに大きな影響力を持ち、企業のイメージアップになる情報を誇大に宣伝するため、働く人々が企業の実態を正確に知る手段が限られています。
 キャリコネは、これらの問題を解決すべく、企業や行政機関に左右されない、働く人々のためのメディアを目指します。社員から提供された口コミ情報を元に、企業の実態を調査し、ビジネスパーソンにキャリア形成において重要な情報を提供します。

年収・口コミ・企業評判・面接情報など転職に役立つ情報サイト | キャリコネ 

社員の口をふさぐのではなく、企業のあり方自体を変えていくしかない

どのケースも当事者バイアスがあることを考えても、匿名のもとにはもはや企業の内部事情を社内に囲い込んでおくことは不可能となったと言ってよいでしょう。どれだけガイドラインを決めても、完全に社員の声を封じることは不可能なのです。特に社員の特定が難しい大企業ほどその傾向は顕著といえます。

もはや、社員に対して誠実ではない企業は、そのビジネススタイルを改めない限り、延々とネット上に怨嗟のこもった社員のうめき声を垂れ流し続けることとなります。そして永久にその行いはネット上にアーカイブされていきます。最悪のケースでは社内情報の漏洩や、技術漏洩にもつながるかもしれません。

逆に、社員が仕事に取り組みやすい理想的な環境を作れれば、社員はソーシャルメディアの利用規制をするまでもなく、環境を守るために企業を貶めるような発言は控えるでしょう。自慢の職場環境についてポジティブな発信を行なってくれるかもしれません。

消費者を騙すような手段で利益を上げているビジネスがあったとして、いつ社員からの善意の告発があるかわからない状況で、そのビジネスを続ける理由を見出すことは難しくなっていくでしょう。

「ブラック企業(※先の企業がそうだといいたいわけでは全くないです。念のため。)」と呼ばれるワードが、ネット上でこれだけあふれているということは、そういった企業が社会的要因で実際に増えていることもさることながら、企業の「ブラックさ」がネット上で広く共有されているということを意味しています。「匿名の告発」が、社会認知のフィルターとなって社会の労働環境を少しずつクリーンに変えていくのです。企業はできるだけ早く、その変化に体制を合わせていくしかありません。

 

 

photo by Alain d’Alché