ソーシャルキャンペーン企画者のための、ゲームアプリ「Curiosity」に学ぶ人々を巻き込むための世界設計

ソーシャルメディアインサイトをお送りします。アクトゼロの黒沼です。

今日は、先週発表されまたたく間に世界中に50万人を超えるプレイヤーを抱えるに至った、スマートフォン用ゲームアプリ「Curiosity(好奇心)」についてご紹介します。「Curiosity」の世界設定は、ソーシャルメディア上(≒ネット上)での拡散を狙ったWebキャンペーンの企画を立案する広告代理店のディレクターやマーケターへ多くのヒントを与えてくれる、と考えたためです。まずは「Curiosity」の説明から。

Curiosityとは

ゲームの詳細はengadget日本語版の記事に詳しいです(以下引用)。
http://japanese.engadget.com/2012/11/06/curiosity-app-store-vs/

世界的ゲームデザイナーであるピーター・モリニューの最新作、” Curiosity – What’s Inside the Cube? ” が App Store でついに公開を迎えました。価格は無料。Curiosity といってもNASAの火星探査車とは関係なく、プレーヤーの好奇心をテーマにした実験的ゲーム作品です。

Curiosity は モリニューが マイクロソフトを退社後、新設の独立系スタジオ 22Cans から発表する第一作。無数のブロックで構成された巨大キューブをタップやアイテムを駆使して崩してゆき、中心に隠された「人生を変えるほどのすばらしい秘密」なるものを手に入れるのが目的です。

こう紹介するとよくある無心プチプチ系スマートフォンゲームのようですが、ユニークなのは破壊対象であるキューブが世界でひとつしか存在しないこと。キューブの状態はサーバを介して同期されるため、全プレーヤーが協力して、あるいは競争して、超巨大なキューブを少しずつ崩してゆくことになります。もうひとつの仕掛けは、最後に現れるという「人生を変えるほどの秘密」には、最後のブロックを壊したたったひとりだけがアクセスできること。

<中略>

キューブはブロック1つの厚みの層で構成されており、ひとつの層のブロックをすべて崩さないと次の層は現れません。(ひとりで縦穴を掘って中心部に到達することは不可)。それぞれの面にはユニークな「なにか」が隠されているらしく、ひまつぶしプチプチ崩し系でありつつ、リアルタイムに進む謎解きやら進行を共有して話題にするソーシャルな仕掛けでもあります。 

 

このゲームの目的は、「640億個の小さなキューブで構成される巨大キューブの中心にある、最後の一つのブロックを破壊すること」です。その最後の「秘密」に触れられるのは50万人を超える全参加者のうちたった1名です。キューブの中心に進むためには、キャベツのように薄いキューブの膜を1枚1枚はいで行く事しか出来ません。参加者は競争相手であり、最後のその時までは協力者でもあるのです。

なにがプレイヤーを惹きつけ動かすのか

Curiosityを構成する要素がどのようにプレイヤーに作用しているのか、その他のエンターテイメントを例にしながら解説します。

◆「人生を永遠に変えてしまうほどの秘密」という巨大な謎=空白

エンターテイメントやストーリーテリングの世界において、ユーザーを強く引きつける手法の一つに「巨大な謎の提示」があります。巨大な謎を提示することで、その答えが何かユーザーは知りたくなります。まさにそこに生まれる好奇心が物語に推進力を生むのです。漫画「ONEPIECE」における、「ひとつなぎの大秘宝=ワンピース」の存在と言えます。物語の序盤で示されることで、物語全体を読み進めさせる大きな力の一つとなっています。

また巨大な謎という「空白」の存在はそれを楽しむユーザーの共通の話題として、格好のネタとなります。2ちゃんねるにおける「鮫島事件」の発生とその後の遷移はその顕著な例です。存在していない「鮫島事件」という架空の事件を2ちゃんねるのタブーとして、ユーザーは周囲でどんな事件だったかを各々のレスで好きなように描写するというのが定番の楽しみ方となっています。→鮫島事件 本当の真実 
実写劇場化もされた漫画、浦沢直樹「20世紀少年」では、世界を危機に陥れる覆面の教祖の正体が誰かということが大きな話題を呼びました。謎を引っ張りとするエンターテイメントには枚挙に暇がありません。

Webキャンペーンとしては、映画「SUPER8」のために行われたキャンペーンがとても手のこんだものでした。なぞだらけの映画予告編がYoutubeにアップロードされ、その動画をコマ送りして知ることができたキーワードで検索すると、特設サイトが現れ、更に新たな謎が提示される…。お時間のある方は是非ご覧ください。
SF映画「Super 8」予告編が違う意味ですごい、全米の映画ファンたちが全力謎解き中 GIGAZINE

空白に触れると人は、その空白を埋めたり想像したくなる生き物なのです。

◆参加者中たった一人しか手に入れられないという希少性

参加者共同で、謎に立ち向かい、時にライバル、時に協力者として最後の一人になろうとするという設定もまた普遍的なものです。僕が今回のゲームアプリの紹介を受けた時、最初に思い浮かべた作品は映画「CUBE」でした。※一部衝撃的な映像が流れます。

 幾何学的な雰囲気と、理不尽な謎に集団で取り組むという設定は、プレイヤーに独特の「平等感」を与えます。このゲームに参加している誰であれ、ゲームに参加しているうちはただ一人の人間です。社会的要素からは切り離された、「一要素」となるのです。

難問に大量の人数で参加して、その最初の突破者を目指すという構造は、富士急ハイランドに今年の夏オープンしたアトラクション「絶望要塞」を思い起こさせます。通常のアトラクションと違い、時間制限性の謎解きアトラクションでクリアできるのは1/100000と宣伝され、話題になりました。(その前身として、よみうりランド園長誘拐事件など、「リアル脱出ゲーム」と言う新しい概念を世間に提示した集団「SCRAP」の存在を忘れてはいけません)

Webキャンペーンで大量の課題に一斉に立ち向かう、お祭り感をうまく演出できていた例として「ソーシャルキングダム」は素晴らしい企画だったと思います。ヤングジャンプ連載の漫画、原泰久「キングダム」のアニメ化に合わせて行われたこのキャンペーンでは、原作の漫画単行本1冊をまるまるベースに、208ページ/1000コマにも渡るボリュームを一般参加者が自分たちの絵柄で埋めていくという企画でした。井上雄彦や荒木飛呂彦、本宮ひろ志など、著名漫画家の参加をフックにバイラルを図った結果、Twitterを中心にシェアが進み、漫画は無事完成。現在も公開されています。→ソーシャルキングダム 

「絶対に無理」と言われると、そのわずかな可能性にかけたくなるのが人間なのです。

◆長くプレイするほど有利になるパワーアップ要素 

その他のソーシャルゲームやゲームアプリと同様に、Curiosityにもパワーアップ要素があります。連続でブロックを壊すことで手に入るコインを集めると、より効率的にブロックを壊すことができるアイテムを購入することができます。今のところ、このアイテムの購入には現実世界の現金を使うことはできず、ゲーム内で手に入るコインでしか購入することができません。これらの効率を上げるアイテムを使うことで、より多くのコインを集めることが可能になり、また新たなアイテムを手に入れることが可能となるのです。

多くのゲームに存在しているこのパワーアップの連鎖は、プレイヤーの途中離脱を防ぐ役割を持っています。ゲームをすればするほど、やめにくくなるシステムと言えます。ソーシャルゲームに大量投資したプレイヤーほど、ゲームから離れることが難しくなるように、強力にプレイヤーを離脱させません。

◆今後続々公開されていくであろう、新たな障害と謎

現時点では、ただ単にブロックを壊していくことが目的のシンプルなゲームですが、どこかのタイミングで、これまでのやり方では超えられない障害が現れてくるものと、僕は予想します。特定のアイテムが必要となるのか、他ユーザーとの協力が必要になるのかはわかりませんが、新たなルールで620億個が破壊し尽くされるまでの長い道のりの中だるみを解消するものと想像されます。

長くプレイヤーを惹きつけておきたければ、次々と二次三次の展開を用意しておくことは必要不可欠なのです。

まとめ

これらの要素を兼ね備えていれば、必ず成功しユーザーに愛されるキャンペーンとなる…わけではありませんが、論理的な「仕掛け」が欠けた、クライアントの要望を「踏まえた」だけの企画が成功することはないと僕は考えています。

参加者を魅了し、惹きつけるキャンペーンを企画したいのであれば、誰よりも冷静な視点でユーザーを理解し、企画設計することが必要なのです。