YouTubeRedから見る、日本のサブスクリプション動画サービスの現状

音楽や動画など、インターネットを介してコンテンツを視聴する際の課金方式として、「サブスクリプション」によるサービスを提供している事業者が増えています。かつてのようなDVD一枚◯千円、動画ファイル1本ダウンロードを◯円で販売、といった商品数に対する料金ではなく、サービスの利用期間に応じて代金を支払う方式のことです。多くの場合は月額定額の料金を支払えば、契約期間中はそのサービスで公開されているコンテンツは自由に利用し放題になるというものです。

2015年は、「日本のビデオ・オン・デマンド(VOD)元年」だったと言われています。それまで国内で先行していた既存業者、NTTdocomoとエイベックス・グループが共同展開する「dTV」や日本テレビが買収してサービスを展開する「Hulu」などがコンテンツ調達・サービス拡充につとめたほか、動画サブスクリプションサービスでは米国最大シェアを誇る「Netflix」、そしてweb通販世界大手のamazonによるプライム(有料)会員向けの「プライム・ビデオ」の日本上陸などがあり、2016年の国内市場では、まさに動画サブスクリプションサービスが群雄割拠し、過酷なシェア争いを展開している状況です。

米国ではNetflixが大幅なシェアを獲得。次いでプライム・ビデオ、Huluと続く

そして、web動画では最大手、グーグルが提供するYouTubeが米国で展開している有料サービス「YouTube Red」が2016年内に日本国内でもサービス提供を開始することが予定されています。これは、YouTubeを視聴する際に、映画などのコンテンツが定額で視聴し放題になるだけでなく、無料の会員には無い付加サービスが提供されるもので、国内価格の発表はまだありませんが、アメリカではAndroidユーザーで月額9.99ドル、iOSユーザーでは月額12.99ドルとなっています。

YouTube Redで可能なこと

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https://www.youtube.com/red

では、このサービスでは何が可能になるのでしょうか。大きく分けると以下の5項目のサービスが提供されます。

YouTubeRed専用のコンテンツ

現在、準備中のようですが、映画やテレビ番組のコンテンツや、Googleオリジナルの映画や番組、そしてYouTubeといえば人気YouTuberによる限定動画なども公開される予定のようです。まさにgoogleが動画サブスクリプションサービスに参入することになります。サービスの鍵は何といってもコンテンツのラインナップの質と量なので、今後、どのようなコンテンツが公開されるかが期待されます。

Google Play Musicも利用可能

動画同様、音楽コンテンツサービスの領域でもサブスクリプションサービスが多数存在しています。Apple MusicやAWA、LINE MUSICのほか、ようやく欧米最大手のspotifyがまもなく日本でサービスを展開する予定です。Google Play Musicでは3500万曲以上が聴き放題になります。Google Play Music会員は、逆にそのままの費用でYouTube Redの機能を利用することができます。

再生時に広告が表示されない

動画再生時の冒頭のCM、なかなか邪魔ですよね。再生中も画面下部にバナー広告が表示されたり…。会員になるとこのような広告が一切表示されなくなり、快適に動画を視聴することができます。

オフライン再生が可能

WiFi環境のない出先のスマホから動画を視聴していると気になるのがデータ転送量。現在、多くの携帯電話の契約形態が上限◯GBまでのようなレギュレーションがあるため、上限を越してしまうと回線速度が制限されるといったペナルティーがあり、そちらの側面からいつでも見放題にする訳にはいきません。ですが、事前にダウンロードしておけばオフライン状態でも楽しめますし、動画が削除される恐れのあるお気に入り動画を保存しておくことが可能です。

バックグラウンド再生が可能

スマホでYouTube以外のアプリを起動すると再生は止まってしまいますが、Redではバックグラウンドでの再生ができます。他のアプリで作業しながらBGM代わりにYouTube動画を再生させることが可能になります。

日本でのVODサービスの現状

我が国でもかなり昔からVOD(ビデオ・オン・デマンド)のサービスは提供されてきましたがいまいち広い普及に至りませんでした。その理由はいくつか挙げられていますが、既存サービスのUIなどの使いにくさ、スマホなどのデバイスの発展に伴って家族から個人へ視聴スタイルが変わったのに対してサービスがテレビ受像機を主体として展開してきたこと、そもそもコンテンツに対して対価を支払う文化が低かったことなど挙げられています。

更にその以前は、映画を自宅で自由に視聴したい場合には、ビデオやDVDを購入するかレンタルするしかありませんでした。しかし、趣味・嗜好の多様化に伴い、映像コンテンツのレンタル・セル市場は減少の一途を頼っていた中、有料動画配信が補足し、市場を支える一端を担ってる背景もあります。

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http://jva-net.or.jp/report/annual_2016_4-27.pdf

有料動画配信サービス市場は、既存のサービスの普及や、これまで挙げてきた海外勢による月額固定料金でさまざまな動画コンテンツを視聴できるサービスの利用が今後も拡大することが予測されており、国内で2014年度の1,346億円から2021年度には2,000億円を超える市場規模にまで成長すると見込まれています。

https://www.nri.com/jp/news/2015/151125_1.aspx

日本国内では、日本発・海外発の各種サービスが展開されていますが、提供されている動画の本数の視点からサービス規模について見てみましょう。2015年9月現在で、トップは、NTTdocomoとエイベックス・グループが展開するdTVで約12万本となっています。次いでU-NEXT、UULAと日本発勢が本数で最大規模となっています。通信事業者がコンテンツ供給会社と共同で展開しているサービスが上位を占めています。既存の通信サービスのユーザーを囲い込んでいる点でこうしたサービス展開も有利に働いています。海外勢はコンテンツ数ではまだ発展途上にあるといえるようです。

http://ictr.co.jp/report/20150925.html

最後に

まさに2015年から2016年にかけて、様々な動画サブスクリプションサービスの提供開始と、そのサービスの質の向上と普及が再始動している時期だといえます。その市場に、web動画分野の雄であるグーグル・YouTubeが参入することによって、更に競争が激化することが予測されます。市場において競争原理が働くということは、料金やサービスの質の向上といった面では、ユーザーにとってメリットが生じることになり、歓迎すべきことであります。

ただ、こうした”広告無し”で展開する、質の高い優良な内容のコンテンツが定額で視聴し放題のサービスが普及する環境の中、企業が動画を活用したマーケティングやプロモーションの成功が難しくなってくるかもしれません。だからこそ、このようなサービスを利用するユーザーの、好みや傾向などを分析し、目の肥えたユーザーに対しても刺さる、的確な施策を考えることが重要になってきます。