インセンティブ支払いでコンテンツ集めを加速するネットサービスと「プロ」化するユーザーたち

(この記事は2014年10月21日ビジネスジャーナルに掲載された記事のオリジナル版です。)

アクトゼロの黒沼(@torukuronuma)です。

YouTube、ニコニコ動画、Pixiv、Naverまとめ、食べログ、2ちゃんねるなどユーザーが自らコンテンツを投稿し、それを目的に新たなユーザーが集まるサービスが活況です。
サービスの隆盛は、集まるコンテンツのクオリティと量に大きく左右されるため、優秀なクリエイターを抱え込むことが重要となります。そんな中、コンテンツ提供者に対して、インセンティブとして金銭を提供するネットサービスが増えてきています。

今日は、インセンティブを提供する各社の動きと、それにともなって変化するユーザーの姿についてお送りします。

動画サイトで激化するインセンティブバトル

国内の有力動画サービスとして比較されるYouTubeとニコニコはどちらもインセンティブを動画投稿者に支払っています。

YouTubeは2008年から「YouTubeパートナープログラム」を開始し、希望する動画投稿者の動画に広告を掲載することで、その広告収益の一部を投稿者へと還元しています。海外で人気のYouTuberには、年間十億円近い支払を受けるものも多数誕生しており、また日本国内でもHIKAKINなどの所属するトップYouTuberネットワーク「uuum(ウーム)」が企業化するなど、プレイヤーのプロ化が進んでいます。

ニコニコもまた、ニコニコ動画において2011年より「クリエイター奨励プログラム」として、自分のオリジナル作品であることを宣言した動画投稿者に、動画の人気度に準じて、ニコニコサービスで使えるポイント「ニコニコポイント」もしくは現金でインセンティブの支払いを行っています。ニコニコでの人気の高い、いわゆるボカロ曲のクリエイターや歌い手の中には、一つの動画で数十万円を稼ぐユーザーも多く存在し、2014年3月の公式アナウンスでも以下のようにアナウンスされています。

総支払額は8億3901万3368円で、100万円以上を受け取ったユーザーは171人。500~999万円は18人(直近12カ月では8人)、1000万円以上は11人(同3人)と、「これだけでご飯を食べていける程度」(伴さん)の収入を得る人も出てきている。
niconico「クリエイター奨励プログラム」、総支払額8億3000万円超 「これだけで食べていける人も」 (1/2) – ITmedia ニュース 

しかし、一部のユーザーからは、本来のニコニコ動画の文化にはそぐわないと、ポイント制度に批判的な声も上がってきています。

「引用」が加速するキュレーションメディアNaverまとめ

様々なサイトから、関連する情報を集めて編集し、ユーザー自らまとめ記事を簡単に作成することが出来る、Naverまとめもまた、まとめに集まったアクセス数に応じてまとめを作ったユーザーにインセンティブを支払っています。トップまとめ人への報酬額は年間で1,500万円を超えることが2014年7月発表されました。

また、まとめ作成者を支援・奨励する「まとめインセンティブプログラム」、優秀なまとめ作成者に高いレートでインセンティブを支払う「奨励制度」により、まとめインセンティブプログラムの始まった2010年11月以降、インセンティブ総額は現時点で4億円を突破したとしている。上位10人の平均額は約570万円、上位100人の平均額が約150万円だったことも公表した。 
トップの報酬は1500万円以上、LINEがNAVERまとめのインセンティブなど公表 | マイナビニュース 

クオリティの高いまとめ記事がユーザーの人気を集め、アプリダウンロードも順調です。しかし、動画を作るわけでもなく、だれでも気軽に始められる「まとめ作業」がお金になるということで、マナーの悪い一部のユーザーによる他記事コンテンツの無断コピペが問題になっています。

一見よくあるまとめだが、注意深く読むとあることに気づく。まとめという体裁はとっているものの、中身は日刊サイゾーが掲載した「『なんで1社だけなんだ!』ズレた方向に存分な効果を発揮したメディア・スクラム」という記事をそのまま転載し、段落ごとに見出しをつけただけ。「引用」の範囲を明らかに超えた「転載まとめ」に、はてなブックマークやTwitterでは「単一ソースでまとめとは新しいな」、「これ引用の範疇なの?」、「NAVERまとめってPV稼げればこんなので良いんだ…」といった非難が相次いだ。
そのまとめ、転載だよ。知らないのかい? 悪質な「転載まとめ」に非難の声 リツイート数は元記事の40倍 – ねとらぼ 

インセンティブは、クリエイティブなユーザーを集めると同時に、一部のユーザーを安易な金儲けへと走らせています。

そしてFC2運営会社への立ち入り調査が起きる

9月30日。国内ではYouTube・ニコニコ動画につぐ影響力を持つ動画サイト「FC2動画」を擁するネットサービス企業「FC2」の、実質的運用会社として大阪府の「ホームページシステム」に京都府警が立ち入り調査を行いました。FC2動画では、かねてより著作権者に許可無くテレビ番組やAVなどのコンテンツが多数掲載されており、かつての動画配信サービスがそうだったような無法地帯の様相が続いていました。FC2の登記が米国ラスベガスで行われていたことも有り、日本の法規制が及びにくい状況でした。そして、FC2もまた、ユーザーへの動画投稿にインセンティブを提供していました。

FC2のインセンティブでは、会員限定動画などの視聴が可能になる有料会員売上の一部が、投稿者に還元されていました。

著作権法違反の疑いで逮捕されたのは、川崎市に住む無職・鈴木了容疑者(51)ら4人で、今年5月、動画投稿サイト「FC2動画」に「ルーズヴェルト・ゲーム」などの人気ドラマやバラエティ番組を投稿し、著作権を侵害した疑いがもたれています。(中略)「FC2動画」は、自らが投稿した動画の閲覧者が有料会員になると、会員料金の最大半分が投稿者に支払われるシステムになっています。16人はいずれも容疑を認めているということですが、鈴木容疑者は「4000回以上動画を投稿した」と供述していて去年1月から今年7月までに、240万円を稼いでいたということです。
「テレビ番組「FC2動画」に違法投稿 、容疑の16人摘発」 News i – TBSの動画ニュースサイト 

多くの動画サイトが違法コンテンツの削除作業を続ける一方で、インセンティブ目当てでアップロードされる違法コンテンツを容認し、違法ユーザーと共犯的にサービス運用を長年続けていたFC2に、ついに捜査の手が入ったのです。

インセンティブ目当てで「プロ」化するユーザー

自社の運用するサービスにいかに優良なコンテンツを集めるか。各社のコンテンツ争奪戦は、インセンティブの提供によって、より激しさを増しています。インセンティブの提供は、従来からのコンテンツ製作者に「プロ」としての自覚をあたえ、それだけで生活できる「専業トップクリエイター」という存在を成立させることに成功しています。しかし同時に、インセンティブはユーザーの一部を、コンテンツの剽窃や転載へと走らせ、そこで生まれる大きな利益を手段を選ばず実現しようとする、悪い意味での「プロ」をも生み出しています。

インセンティブによる遵法的なコンテンツクリエイター促進が成功するかは、サービス運用者の厳格な管理体制にかかっているのです。

photo by Kevin Dooley