音楽ライブのアーカイブを「お持ち帰り」させるファンサービス

既存の価値観に異議を唱え、事前調整の末に実行させた時にビジネスのブレイクスルーは起こると思います。そういう意味で、最近、音楽のライブ分野においてそうしたブレイクスルーが起きています。

アーティストのライブを鑑賞する際には、その様子の撮影や、録音は禁止されているのが一般的です。権利者側の権利を守るための規則である一方、携帯電話やスマートフォンのカメラの高機能化によって、隠し撮りの問題がますます難しくなる中、「ライブの画像・映像の撮影OK」の動きが始まっています。

◆顧客満足度につながる新たな試み 「録音・撮影OKライブ」の是非(ORICONSTYLE 2013.2.17)

以下引用:
ファンからは「神がかった企画」と絶賛された模様 (中略)
「メリットは動員が増え、しかも高額な席から売れていったこと。ライブにおける付加価値がうまく作用した結果だと思います」
なんでも、件の撮影特化席のほとんどは熱心なファンに“雇われた”プロ級のカメラマンが占める結果になったという。 「自分はライブに集中して楽しみ、写真をプロに任せた分業体制。お金を費やしてでも自分だけの写真を手に入れたいというその熱意には、本当に頭が下がる思いです」

好きなものには出費を厭わないファン心理なのでしょう。こうした施策により、収益を向上させたり、ファンによるSNSなどへの投稿による情報拡散でアーティストの知名度向上など、ビジネスとしての成果も上々のようです。

主催者側がライブ当日の音源などを収録し、終演後最短1時間でダウンロード提供するサービスもあります。

LIVE to Go(株式会社 TBSラジオ&コミュニケーションズ 事業局)

ユーザーはライブ会場で、ダウンロード用のシリアルナンバーが書かれたカードを購入することで、ライブ後にPCやスマホ等で音源などを手に入れることができます。特典として、アーティストの写真や、本人によるコメントなども収録できます。

価格は、コストを見込んだ上で、主催者側で設定できるようですが、2000円~3000円で販売することが多いようです。CDアルバム1枚分の価格感でしょうか。また、ライブチケット購入者特典として、このダウンロード用カードをプレゼントする事例もあるようです。

楽しかったライブのいい思い出になりそうです。自分が好きで足を運んだアーティストのライブで、この価格感であれば思わず買ってしまうような気がします。また、日によってセットリスト(曲目と順番)や曲間のMCコメントを若干変えることで、ファンの購買意識をくすぐることもできそうですね。

また、ライブの動画を、スマートフォンでダウンロードするサービスも始まっています。

◆歌手・野口五郎氏が特許、スマホでライブ「持ち帰り」 (日本経済新聞 2013.2.28)
以下引用:
QRコードにはユニークなIDが埋め込まれており、初回の視聴時にIDとスマホの端末IDなどをサーバー上でひも付ける。いったん利用したQRコードのIDについては初回視聴以後は、他の端末からダウンロードできなくなり、イベント来場者以外からの不正アクセスを防ぐ。
◆テイクアウトライブ

専用アプリのダウンロード・インストールが必要のようですが、動画の持ち帰りも、ファンサービスとして提供することができるようです。

これらのように、生で体験したことを、記録されたアーカイブで思い出したり、繰り返し楽しむことができるサービスが音楽のライブ周りでは広がりつつあります。

私もこれまでUSTREAM等、多くのライブを動画で生中継配信を行ってきましたが、権利者側の問題等でどうしてもアーカイブ録画を残せない場面が多々ありました。アーカイブ動画は、当日その場でリアルに体験したファンにとっても、後日、イベントがあったことを知ったファンにとっても、ニーズがあるものだと思います。そこにビジネスチャンスとなる可能性が大いにあるのかもしれません。

Photo By Leo Reynolds  Anirudh Koul  Kmeron